研究課題/領域番号 |
23530238
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鍋島 直樹 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (70251733)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | 経済学史 |
研究概要 |
23年度は、理論と政策の両面にわたってポスト・ケインズ派経済学の歴史的展開過程をあらためて振り返り、今日における意義と可能性についての大まかな展望を得ることに努めた。それとともに、広く異端派経済学の諸潮流における新動向の把握にも取り組んだ。さらに、これを踏まえて、ケインズおよびポスト・ケインズ派の経済政策論についての検討を進めた。 今次の世界経済危機のなかで新自由主義政策の矛盾と限界が明らかとなり、一部では「ケインズの復活」も指摘されている。しかしながら、ケインズ自身が提唱していた経済政策とは、単なる赤字財政政策とは多分に異なるものであった。したがって、各国政府が経済危機に対処するべく積極的な財政出動に乗り出したことを以て、ケインズ主義的な経済政策が復活したと見なすことは必ずしも正しくない。 ケインズは、『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936年)において、失業問題を克服するための方策として「投資の社会化」を唱えた。それは、微調整政策を通じた短期的な総需要管理にとどまることなく、国家が投資を直接的に組織することによって、長期的な視野から投資水準を安定化させるための政策的・制度的枠組みの構築をめざす政策であった。ポスト・ケインズ派は、ケインズの「投資の社会化」の構想を継承し、その現代的な展開を通じて、今日のマクロ経済政策に対する代替的な政策枠組みを構築しようと試みている。彼らは、短期においても長期においても、財政政策はマクロ経済政策における強力な手段であると主張する。世界的な経済危機が続くなか、市場の役割は何か、国家の役割は何か、を問いつづけたケインズの思想に立ち返ることの意義は大きい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の初年度に当たる23年度の目的は、ポスト・ケインズ派経済学の意義と可能性についての大まかな展望を得ることにあった。この目的を達成するため、ケインズとカレツキの学説に関する最近の研究文献を広く渉猟した。また、これとあわせて、経済学の歴史におけるポスト・ケインズ派の位置づけ、および現代経済学におけるその役割についても、あらためて確認するよう努めた。今後は、これらの成果を踏まえて、ポスト・ケインズ派の経済理論と経済政策の検討をさらに進めていくことができるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
23年度の成果を踏まえて、ポスト・ケインズ派の経済理論および経済政策についての研究を進めてゆく。しかしながら、ケインズとカレツキの学史的検討、および現代政治経済学の諸潮流における新動向の把握など、初年度に扱った課題にも継続して取り組んでいくことになるので、研究期間全体を通じて、過去の理論と現代の理論のあいだの往復作業を絶えず続けていくことになる。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度には、ほぼ計画通りに研究費を使用し、その結果、7211円を次年度に繰り越すこととなった。24年度についても、当初の申請からの大きな変更はない。研究費の大部分を経済理論・経済学史関係図書の購入に充てるとともに、必要に応じて、資料収集のための国内旅費、および謝金などの支出を行なう予定である。
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