研究課題/領域番号 |
23530238
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鍋島 直樹 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (70251733)
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キーワード | 経済思想 |
研究概要 |
25年度には、学説史的な視点からカレツキのマクロ経済理論についての考察を進めた。その目的は、ポスト・ケインズ派経済学の理論的源泉となっているカレツキの「有効需要の理論」の今日的な意義と可能性を究明することにある。 そのためにまず、「一般理論」の発見においてカレツキがケインズに先行していたのか否かをめぐる論争を振り返る。またこれと併せて、ポスト・ケインズ派経済学者のあいだで今日さかんに展開されている成長と分配の「カレツキアン・モデル」の枠組みに照らして、カレツキのマクロ経済学の特徴と意義について検討する。 カレツキは、1933年と1934年の論文において、ケインズに先駆けて不完全雇用均衡の存在を説明するための理論的枠組みを提示しており、このことを根拠に、カレツキが「一般理論」を先取りしていたと主張することも可能であろう。しかし、この点にカレツキの主要な貢献を見出すのは、カレツキの経済学の意義と本質をかえって矮小化することになりかねない。他方で、「賃金主導型」の成長レジームを定式化しているカレツキアン・モデルも、カレツキの経済学の実り豊かな発展の一方向ではあるにせよ、その本質をとらえたものであるとは言えない。カレツキのマクロ経済学を賃金主導型成長モデルの原型として位置づけることもまた、一面的な理解なのである。 結局のところ、経済活動水準は短期においても長期においても総需要によって決定されるという見解を提示したところに、カレツキのマクロ経済学の歴史的意義を求めることができる。資本主義経済には、十分な総需要をつくり出して完全雇用を保証する機構が備わっていない。これが、カレツキの「有効需要の理論」の核心である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主たる目的は、ポスト・ケインズ派経済学の形成と発展の過程について考察することにある。この目的を果たすべく、25年度には、今日多くのポスト・ケインズ派経済学者によって展開されている分配と成長の「カレツキアン・モデル」の枠組みに照らしながら、カレツキの経済理論の特質と意義を明らかにすることに力を注いだ。その成果はすでに論文の形にまとめており、近く公刊する予定となっている。これまでの成果にもとづき、ポスト・ケインズ派経済学の形成と発展の過程についての研究を、今後、さらに深く進めていくことができるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を踏まえて、ポスト・ケインズ派経済学の形成と発展についての考察を進めていく。それと併せて、ケインズとカレツキの学史的検討、ラディカル政治経済学の新動向の把握などの作業も並行して進めていく。研究期間全体を通じて、経済学における過去と現在の往復作業を続けていくことになるが、残りの期間では、金融不安定性分析など、ポスト・ケインズ派経済学の現代的展開について考察することに重きが置かれることになるであろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度にはほぼ計画通りに研究費を使用し、その結果、22,088円を次年度に繰り越すこととなった。次年度使用額が生じたのは、主として、謝金の支出がなかったことによる。 26年度についても、当初の申請からの大きな変更はない。研究費の大部分を経済理論・経済学史関係の図書の購入に充てるとともに、必要に応じて、資料収集のための国内旅費、および謝金などの支出を行なう予定である。
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