27年度には、研究のまとめとして、ポスト・ケインズ派のアプローチにもとづき、現代資本主義の大まかな見取り図をあたえるべく、資本主義の歴史的進化を振り返ったうえで、2008年の世界金融危機の構造的な原因を探るとともに、危機の解決のための方策について検討した。そしてこれらの考察を通じて、資本主義の行方についての展望を試みた。 ポスト・ケインズ派の見るところ、今次の世界的金融危機は、その起源を1980年代初めにまで遡ることができる。この時期以降、先進諸国で採用された新自由主義政策のもとで、経済成長は緩慢なままにとどまる一方で、雇用が不安定化するとともに、所得格差の拡大が進んだ。ポスト・ケインズ派は、所得分配の不平等化が危機の潜在的な原因の一つであると見ている。 1980年代以降の資本主義において生じた見過ごすことのできない変化として、国家の経済的な役割の縮小に加えて、経済において金融部門の演じる役割が急速に拡大したことがある。ポスト・ケインズ派の理論家たちは、この現象を「金融化」と呼んでいる。そして金融部門の政治的・経済的な影響力の増大を反映して、各国の経済政策はその利害を強く反映するものとなった。こうして1980年代以降、金融規制の緩和が金融部門の力を増大させる一方で、金融部門の強い圧力のもとに新自由主義政策が進められてきた。すなわち、金融化と新自由主義とが相俟って、経済の不安定性を増幅させたのである。 このような視点にもとづき、ポスト・ケインズ派の「金融化」論について検討を加えるとともに、新自由主義への政策的代案である「賃金主導型成長戦略」の可能性について考察し、ポスト・ケインズ派による現代資本主義分析の意義を明らかにした。
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