研究課題/領域番号 |
23530395
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
岡村 秀夫 関西学院大学, 商学部, 教授 (70319606)
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キーワード | IPO / 新規公開 / 新規株式公開 / 新規上場 / 価格形成 / ティックデータ |
研究概要 |
本年度の研究結果から,ジャスダック市場にとどまらず,東証マザーズ市場,大証ヘラクレス市場(当時)の代表的な新興企業向け3市場いずれにおいても,価格形成に関する季節性が確認された。 まず,初期収益率に関して,平成23年度の研究成果をふまえて,半年効果の存在について検証を行った。その結果,3市場いずれにおいても上半期の収益率が下半期に比べて有意に高いという半年効果が確認された。 次いで,半年効果を引き起こしている可能性のある投資家行動に関して,公開価格決定プロセスに焦点を当てて分析を行った。公開価格決定に先立って,ブックビルディング(需要積み上げ)が投資家に対して実施されるが,その際に仮条件が上限と下限をもって提示され,原則としてその範囲で公開価格が決定される。そこで,仮条件中間値から公開価格への上昇率を投資家センチメントの代理変数とみなし、上半期と下半期の比較検証を行った結果,上半期では下半期に比べて有意に上昇率が高いことが明らかになった。 加えて,ティックデータから得られる情報を用いて,上半期と下半期の投資家行動を比較分析した。具体的には、uptick数とdowntick数の比較、ならびにuptickの約定における取引金額合計とdowntickの約定における取引金額合計の比較を行った。uptickとは直前の約定に比べて高い価格での約定のことであり、downtickとは直前の約定に比べて低い価格での約定のことである。従って,uptickは投資家の積極的な買いの行動、downtickは投資家の積極的な売りの行動を表すと考えられる。その結果,サンプル数の少ないマザーズとヘラクレスについては結論を留保する必要があるものの、IPOの中心的な市場となっているジャスダックにおいて、下半期に比べて上半期に、相対的に投資家が積極的な買いの行動をとっている可能性が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規公開制度の特徴をふまえた上で,投資家の特徴的な行動に焦点を当てることによって,効果的な分析が可能になったと考える。すなわち,新規公開株に対する公開直前の需要状況はブックビルディングのプロセスに表れるが,制約のある仮条件と公開価格の双方を観察することによって,投資家センチメントをより正確に確認することが可能となった。また,個別銘柄のティックデータから投資家センチメントを反映している項目を絞り込むことによって,新規公開時における投資家センチメントと売買行動の関係を抽出することができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度,平成24年度の研究を通じて,新規公開株の価格形成に関して,公開前,公開時,公開後の長期,という一連のプロセスについておおむね分析を終えることができた。最終年度である平成25年度は,これまでの研究成果の再検討,解釈を踏み込んで実施することに加えて,望ましい新規公開制度のあり方について検討を進める予定である。具体的には,市場別,銘柄毎の分析を追加的に実施すること,新規公開企業毎の属性をふまえた分析の実施,市場構造の変化時期をとらえた分析の実施,などを検討している。 なお,研究補助者による支援,情報収集,連携研究者とのディスカッション等,ティックデータ用ツールなど,平成24年度に取り入れた方策は大変有意義であったため,平成25年度も継続する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記,今後の研究の推進方策で述べたように,平成24年度に取り入れた方策は大変有意義であったため,研究補助者への謝金,情報収集旅費,連携研究者との打ち合わせ旅費,ティックデータ用ツール料金等を中心に研究費を使用する計画である。なお,平成24年度は日程調整上の問題等のため,連携研究者との打ち合わせ,調査,情報収集等の出張の一部を実施することができず,結果的に繰越金が発生した。平成25年度は早い時期から日程調整を開始し,必要な出張を可能な限り行う計画である。
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