本年度の研究では、初値成立時までの短期と新規公開後5年程度の長期、それぞれの価格形成について、これまでの研究結果を再検討するとともに、両者の関連について分析を行った。 短期の価格形成に関しては、おおむね上半期の方が初期収益率は高く、また日中の取引状況にも積極的な傾向が見られる。また、新規公開件数は月別の差異が大きいものの、必ずしも1年の前後半いずれかに集中している訳ではなく、件数の多寡が初期収益率の水準に直接影響を与えている可能性も低い。従って、株式市場全体の上半期効果が、新規公開株の価格形成にも影響を与えている可能性が強いと考えられる。なお、追加的に行った親子上場に関する分析結果からは、信頼性の高い情報提供が価格形成に影響を与える可能性が示唆された。 長期の価格形成に関して、初期収益率の大きさで分割したサブサンプルを用いて分析したところ、ブックビルディング(BB)方式導入後の期間については初期収益率の高い場合には長期パフォーマンスが低迷する傾向が明らかになった。一方、入札方式期間については、同様の傾向は観察されるものの、BB期間ほど顕著なものではなかった。 公開価格決定方式別の初期収益率については、入札とBBの比較では、平均値で約5分の1(入札11%・BB53%:ジャスダック)、標準偏差が6分の1(入札15%・BB92%:同)となっており、BB方式導入後に初期収益率が大幅に高くなるとともにバラツキも大きくなることが明らかになった。 背景として、BB方式では仮条件上限価格が公開価格の制約となっており、投資家の評価・人気を公開価格に十分反映できないという制度面の問題が挙げられる。 今後の課題として、公開価格決定プロセスにおける制度・慣行を見直すとともに、新規公開企業に関する情報提供のあり方、新規公開株の短期的な売買のあり方や配分方法について検討することが挙げられる。
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