研究課題/領域番号 |
23530646
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
古村 学 宇都宮大学, 国際学部, 講師 (10547003)
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キーワード | 世界自然遺産 / エコツーリズム / 小笠原 / 西表 / 知床 / 日常生活 / 自然観 |
研究概要 |
本研究の目的は、エコツーリズムと地域住民とのかかわりを、日本の世界自然遺産にかかわる複数の地域から比較検討し、地域社会にとってより望ましい観光とは何かを明らかにすることにある。 平成25度は、(A)昨年度に引き続き、研究計画書にある③「比較検討・理論化」を進展させ、④「研究成果の公表」をおこなった。(B)また、これらの「比較検討・理論化」の成果、および「研究成果の公表」からのフィードバックをもとに、ひきつづき「二度目の現地調査」をおこなった。 (A)「比較検討・理論化」では、さまざまな諸条件によって決定されるライフスタイルの差異から、調査地ごとの自然観の差異、当該地域住民にとっての自然の意味を比較検討のなかで明らかにした。また、研究者および観光客にとってのグローバルな自然の意味を明らかにしたうえで、ローカルな地域住民にとっての自然の意味と比較し、この意味のずれから、当該地域住民が世界自然遺産に示す反発、葛藤、賛同、無関心などの意味を検討した。これらのことは、「研究成果の報告」として、調査地での中間報告をおこなった。 (B)「二度目の現地調査」では、8月半ばから9月にかけて西表島で1か月のフィールドワークをおこなった。世界自然遺産登録に向けて動いている環境省などの行政機関への聞き取りを行うとともに、現地での自然保護団体、観光関連団体、教育関係者、農業者など多様な人々への聞き取りを行った。また、これまでは移住者の多い地区での調査が中心であったが、比較のために古くからある地区である古見での調査をおこなった。 また、これに先立ち8月前半には、南大東島で1週間のフィールドワークをおこなった。南大東島へのエコツーリズムの導入は、環境省の委託をうけたコンサルティング会社が主導したものであり、この経緯は西表島と似たものである。エコツーリズム導入以降、現在までの変化にかんするデータを収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の到達目標は大きく分けて二つある。(A)これまでの調査で得られたデータをもとにした「比較検討・理論化」を進展させること。(B)「二度目の現地調査」をおこなうことである。多少の変更はあったが、おおむね目標は達成されている。 (A)「比較検討・理論化」にかんしては、これまでに得られたデータをもとに、日常生活の中における自然との関係を比較検討した。そのうえで、それぞれの地域に共有されている自然観を明らかにし、共通点と差異とを明らかにした。この「比較検討・理論化」の途中経過は、8月から9月にかけ西表島で、環境省主催の講演会など複数回の報告会をおこない、そこでの議論を通じて深化させてきた。 (B)「二度目の現地調査」にかんしては、(A)における「比較検討・理論化」での成果をもとに、8月から9月にかけて、南大東島および西表島において調査をおこなった。南大東島での調査は、計画にはなかったものであるが、西表島との共通点を持ち、比較検討のうえで、有意義なものであった。西表島での調査では、世界自然遺産への動きは、まだ小さなものであり、住民の意識も弱いものである。しかい、知床および小笠原での経緯を話すことにより、多くの考えを聞くことができた。これらの調査をとおして、たいへん有益なデータを収集することができ、十分に目標を達成することができた。 春の調査にかんしては、知床で現地調査をおこなう予定であったが、同時期にケニアでの調査をおこなったために、実施することができなかった。しかし、平成24年度の知床調査を計画の倍以上の期間おこなっているため、データの蓄積は十分であり、本研究遂行の上での障害は少ない。むしろ、ケニアでの調査は、本研究の内容と類似であるために、先進国と途上国の比較という点で、本研究に大いに寄与するものである。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通りに、進める予定である。 最終年度である今年度の研究計画は、(A)これまで得られてデータをもとに「比較検討・理論化」をおこなうこと、(B)データの不足を補うための「追加調査」をおこなうこと、これらをもとに(C)学会や研究会、とくに調査地域での「研究成果の公表」をおこなうことである。 ①8月上旬まで:(A)「比較検討・理論化」の作業を進め、(B)「追加調査」および現地での(C)「研究成果の公表」をおこなう準備を整えたい。これまで収集したデータを精査することにより、調査地ごとの世界自然遺産およびエコツーリズムへの対応とその意味を明らかにし、そのうえで、比較検討および理論化をおこないたい。 ②8月中旬から9月中旬:上記①で行った「比較検討・理論化」の際に明らかとなった不足しているデータを収集するために、8月中旬から9月中旬にかけて、知床および小笠原にて(B)「追加調査」をおこなう予定である。また、この時に、調査地域にて(C)「研究成果の公表」をおこない、調査に協力してくださったかへのフィードバックとする。ここで得られた知見をもとに「追加調査」を進展させたい。 ③9月下旬から2月:上記②で行った、「追加調査」で収集したデータ、および現地での「研究成果の公表」からの知見をもとに、(A)「比較検討・理論化」の作業を進展させ、本研究の結論を出したい。また、これらの成果は、学会や研究会をとおして、広く学術界にたいする「研究成果の公表」とするつもりである。 ④3月:西表などにて、(C)「研究成果の公表」をおこなう予定である。なお、この際に調査データの不備を修正するための「追加調査」も行う予定である。⑤3月下旬まで:これまで行った「研究成果の公表」をもとに、最終報告書を作成する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
現在までの達成度に記したように、当初計画では3月に知床にて調査をおこなう予定であったが、同時期に別基金によりケニアにて調査をおこなったために、調査をおこなうことができなかったため、次年度使用額が生じた。 これまでの現地調査では、当初計画より長期間滞在しており、予算の都合により、滞在費などを減額申請していた。今年度も、当初計画より長期間滞在する予定であり、減額しない処置を取れば、十分に使用可能である。
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