本研究の目的は、世界自然遺産にかかわる複数地域の比較から、エコツーリズムと地域住民とのかかわりを比較検討することにより、地域社会にとってより望ましい観光とは何かを明らかにすることにある。 本研究の最終年度となる平成26年度には、(A)これまでの研究成果をもとにした「比較検討・理論化」を深化させるとともに、(B)追加調査としての「現地調査」をおこなった。また、(C)調査対象地域での講演会等、書籍等の出版、学会や研究会等での研究発表をとおして「研究成果の公表」を広くおこなった。 「現地調査」では、8月に北海道知床、9月に東京都小笠原諸島、3月に沖縄県西表島にて、「比較検討・理論化」により明らかになった不足データを補うための追加調査をおこなった。この追加調査の際には、「比較検討・理論化」によって得られた知見をもとに、講演会、会合への出席、個別の話し合いなどをおこなうことにより、研究成果を調査地域へフィード・バックした。また、その際に意見交換を行い、「比較検討・理論化」の発展へとつなげている。 研究期間全体を通じて明らかになった研究成果は、第一に、日常生活における自然とのかかわりの地域ごとの多様性、そこから生まれる自然観の多様性であり、地域ごとの社会内部でみられる共通性である。この地域ごとの多様性および地域内部での共通性が、エコツーリズムへの態度を決定づけている。第二に世界自然遺産にたいする態度には各地域で共通性がみられる。地域振興としてプラスにとらえるよりも、外部からもたらされた攪乱要因としてマイナスにとらえているという共通性である。この背景にあるのは、世界自然遺産政策および自然保護政策はグローバルな自然観に基づくものであり、地域ごとのローカルな自然観を考慮できずにいるため、地域社会から乖離しているという現状である。これら研究成果は、書籍等、講演会、学会発表等で広く公表した。
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