研究課題/領域番号 |
23530813
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
若林 明雄 千葉大学, 文学部, 教授 (30175062)
|
キーワード | 社会的認知能力 / 神経生理学的基盤 / 脳皮質血流 / 個人差 |
研究概要 |
本研究では,社会的認知能力の個人差の認知神経学的基盤を検討することを目的としているが,本年度は,その第二段階として,昨年度作成した実験課題を刺激とし,課題遂行時における被験者の脳の前頭部の血流測定を行った. 具体的には,実験課題として,静止画による顔写真を使用した心的状態の判断課題,目の周囲の写真のみを刺激とした Eyes Test (RMET) を社会的認知能力課題として実施するとともに,昨年度の実験によってそれらと同程度の認知的負荷があり,かつ社会的認知能力を必要としない課題(統制課題)として,静止画像による視点取り課題を実施した.そして、課題遂行時の前頭皮質部位の血流反応を,Spectratech OEG-16 を使用して記録し、分析を行った. その結果明らかにされた点は、社会的認知課題と統制課題では,被験者全体の平均傾向においても前頭部の血流反応は異なるだけでなく、各課題遂行時における前頭部の血流状態には被験者間には一定の個人差があった,という2点であった.脳皮質の血流に限らず,生理的指標には個人差が大きく,それをどのように統制するかが,生理的指標を使用した研究においては鍵となることが知られているが、本研究で得られたデータを見る限り,単なる個人間のバラツキではなく,課題の種類や刺激の条件等によって、被験者間に一定の共通性認められており,特に、E-S モデルに基づく認知スタイルとの一定の対応関係が認められている。したがって,最終年度に予定している動画課題を用いた実験の結果と組み合わせることによって、個人の認知スタイルの違いを、社会的認知課題遂行時の前頭部の血流という生理的指標によって説明するすることが可能になると思われる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,個人差が大きく,不安定であるとされている前頭部の血流状態を手がかりとして、社会的認知能力の個人差の神経学的基盤を検討することを目指している.その点を考慮すると,本年度の実験結果は、単なる反応のバラツキだけではなく,社会的認知能力を必要とする課題か否かによって,個人間に前頭部の血流パターンに一定の違いが存在することを示唆しているだけではなく,その個人差が、別の個人差指標である E-S モデルによる認知スタイル(Brain Type)との関連性も示唆していることから、本研究計画のアプローチに妥当性があることを示している.その点で,研究2年目の成果としては,一定 の評価ができると考えている. そして,課題遂行時における前頭部皮質の血流パターンには,課題条件(認知的負荷の違い)によって個人内に一定の安定したパターンが示されるケースが一定数認められることから,最終的には,社会的認知能力の個人差と脳神経学的反応との間に,一定の関係性を見いだすことは十分に可能であると考えられる. 以上の結果から,本年度の成果は、研究計画がほぼ順調に進展していることを示しており、最終年度の実験と分析を加えることで、当初の計画通りの成果を得られるのではないかと考えることができる.
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度の実験では、静止画刺激を使用して実験を行ったが、最終年度は、動画刺激により社会的認知処理が必要とされる課題と、同程度の認知的負荷をもち社会的認知処理は不要な課題を組み合わせることにより、より生態学的な妥当性が高い条件下での脳の前頭部皮質における血流状態を測定し、分析することによって、社会的認知処理の個人差に対応した神経生理学的基盤の特定を試みる。また,脳皮質の血流反応は、個人内でも不安定な部分があるので,個人内で安定した指標となるような部位の特定も試みる. 次いで,課題条件と反応指標を決定した上で,社会的認知処理に特化した神経活動が,前頭部皮質のどの部位でもっとも観察されるのかを明らかにする.そして,こうしたトポロジカルな反応の個人差と,社会的認知能力の個人差との関連性について検討を行う. また,本研究では,予算上の制限から,脳活動の指標として前頭部の皮質の血流のみを測定しているが,これまでの研究成果によって,認知的処理遂行時においては前頭皮質に限らず,脳の様々な部位に活動が見られることが報告されていることから,本研究では, あわせてEEG(脳波)を測定し,そこから特に頭頂部(運動統合野)のμrhythm の desynchronity を指標とし,mirror neuron 的な視点からも社会的認知能力の個人差と脳活動の関連性を検討する.それによって,複数の脳部位での神経活動を指標として,社会的認知処理過程における個人差の神経科学的基盤の存在を検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
最終年度は,予算の一定額は,実験課題の作成と血流測定に伴う消耗品の購入費用,並びに,一定の負担をかけることになる実験被験者への謝金に充当する予定である. また,一部の研究成果を紹介するとともに,当研究に対する近接領域の研究者からの意見を収集する目的で,研究成果の一部を国際学会において報告する予定であり,そのための旅費として予算の一部を充当する予定である. 具体的な研究予算の使用計画内訳は、以下のとおりである。 直接経費 600,000円のうち 物品費 200,000 円,旅費 200,000 円,人件費・謝金 100,000 円,その他 100,000 円
|