本年度は,定型発達成人の中から,自閉症スペクトラム上で自閉症傾向が高い個人と低い個人を抽出し,両者の社会的認知課題処理時の前頭前野の皮質活動を比較することで,社会的認知処理における神経活動の個人差について検討した。 自閉症スペクトラム指数(AQ)を実施し,日本における診断レベルとされる33点以上の個人(自閉症アナログ群)6名と定型発達成人の平均マイナス1SD以下に対応する14点以下の個人6名を抽出した。各実験参加者は,個別に実験室において,Spectratech Inc.製 OEG-16を前頭部に装着し,認知課題と視点取り課題に回答を求められた。社会的認知課題では,ディスプレイに呈示された画像とヘッドフォンを通して与えられた音声の人物の心的状態が,呈示された心的状態を表現した語句と一致しているかどうかを判断することを求められた。視点取り課題では,ディスプレイ上の左半分に呈示された3つの物体とそれを見る視点が呈示された写真から,その視点がディスプレイの右側に呈示された3つの物体の鳥瞰写真のどの位置にあるかという判断を4件法(90度ずつ異なる4つの方向)で求められた。Agentive条件課題では,呈示された視点は人物であり,Spatial条件課題では,視点はカメラであった。 結果の分析では、個人ごとに16チャンネル中,右前頭前野に対応するCh.1からCh.6と左前頭前野に対応するCh.11からCh.16の各課題実施期間のオキシヘモグロビン濃度(μM)の平均を求め,それを変量として,グループx課題x左右の3要因分散分析を行った。その結果,グループと課題と左右に交互作用があり,単純主効果を調べたところ,AQ高得点群が低自閉症傾向群に比べ,動画による社会的認知課題遂行時に,Spatial視点取り課題遂行時よりも,右前頭部のオキシヘモグロビン濃度が低いという有意傾向が認められた。
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