研究課題/領域番号 |
23530864
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
伊藤 忠弘 学習院大学, 文学部, 准教授 (90276759)
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キーワード | 動機づけ / 達成行動 / 関係性 / 他者志向的動機 / ボランティア / 養育態度 |
研究概要 |
大学生を対象に質問紙調査およびREAS(リアルタイム評価支援システム)を用いたインターネット上での調査を実施した。質問紙の内容は、自己・他者志向的動機尺度、親の養育態度尺度、ボランティア活動に対する認知的評価を尋ねる尺度であった。REASでは一週間にわたり1日3回対人的感情(感謝、他者への信頼、孤独)と全体的感情(安心、心配)を報告させ、さらに毎日1日を振り返って「人に感謝した経験」と「人から感謝された経験」の有無とその具体的なエピソードを報告してもらった。 自己・他者志向的動機への態度とボランティア活動に対する認知的評価の関連について、達成行動とボランティア活動の両者の動機をめぐる「自己」と「他者」の関係づけにおける共通性が浮き彫りとなったことが非常に重要である。達成行動は本来「自分のため」という理由や意識で開始、継続され、親をはじめとした重要な他者からの期待が伴うことによって、「他者の期待に応える」や「他者への恩返し」といった動機も生じてくることが明らかにされていた。ボランティア活動については本来、「困っている他者のため」という理由や意識で開始、継続される一方で、自分の経験やアイデンティティ、他者からの肯定的評価の獲得といった側面が伴うことによって、「自分のため」という動機も現れてくる。2つの行動・活動において「自分のため」と「他者のため」という動機は葛藤することもあれば、統合されて行動に対して促進的に働くこともあると予想された。今回の研究では、他者志向的動機に肯定的な態度を持つ者は、ボランティア活動のもたらす利己的な側面についても肯定的に捉えるのに対して、他者志向的動機を最終的には「自分のため」としてその動機に懐疑的な人は、ボランティア活動の利己的側面、偽善的な側面を意識しやすいことが明らかにされた。 なお他者志向的動機と対人的感情経験との関連は現在分析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
調査研究は実施されてきているものの、他者志向的動機を個人差変数ないし実験的に操作することによる実験的研究について、実験参加者の確保および実施時間の確保が十分でなかったため、まだ実施に至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
質問紙調査として比較的実施可能でかつ必要な研究として、まず看護や福祉といった他者志向的動機づけが顕著となりやすいような職業に就くことを目指している学生を対象にデータ収集を行い、大学生との比較研究によって、自己・他者志向的動機尺度の妥当性を確認する。 またこれまでは大学生に中学・高校時代の学習を回顧してもらい学業達成行動と他者志向的動機との関連を検討していたが、中学生、高校生に直接調査を実施することによって、他者志向的動機が、いわゆる「親の過剰な期待」やそれに伴う「過剰適応」のような従来指摘されているような否定的な側面ではなく、むしろ学業達成に肯定的な影響を持っていることを確認する。また大学生の調査で他者志向的動機は将来の職業選択において社会貢献を重視する就業動機と関連することも指摘されているため、この点も中学生・高校生に対する調査で再確認する。このような観点から他者志向的動機を考慮することは実際の教育場面での達成動機づけに重要な意義があると考えられるため、この点を説明して中学校、高等学校への協力を求める。 さらにこれまでの調査研究に対して、他者志向的動機を持つ者、あるいは他者志向的動機を操作されたものの達成行動への影響を実験的研究によって実際の行動として確認することが急務である。社会的認知の手法を用いた実験的検討を最初に実施し、実際の達成行動の差異まで検出できれば、他者志向的動機の概念的妥当性が確保されると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
質問紙調査に伴う印刷費、データ入力費用として使用するほか、実験・調査研究の研究協力者のへの謝礼、社会的認知実験実施のためのパソコンあるいはプログラム作成のためのソフトウェアの費用として使用する予定である。
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