研究課題
本研究では,小学校から大学までの理数科目を対象として,「協調的に問題を解いてから公式や理論を教わる協調的な発見学習法」と「教わってから協調的に問題を解く受容学習法」を対比し,効果を単元理解と未来の学習への準備(学習素材を基に未知の問題を解くスキルや疑問を基に学びたいことを探すスキル)の2指標で評価し,成功例のプロセスを分析することで,「いつ」「何を」発見させて「何を」教えるべきかをガイドできる協調学習理論を構築する. 平成23年度は,大学生対象に,簡単な数学問題を題材として発見学習と受容学習の効果を比較し,前者の過程を詳細に分析した.また,学習で得た知識やスキルをどう活用するかを検討するため,転移課題を二人で解かせ,その会話を分析した.その結果,発見学習では,適用すべき公式等の制約が無いため,未知の問題を多角的に吟味して理解に努めることが可能になり,これを繰り返すことで一種の吟味スキルが獲得された.さらに,自分で問題を解いた経験から,公式や解法の解説からは得ることが出来ない独自の経験則が獲得され,この知識と上記スキルが相まって,転移課題解決を可能にする準備となったと解釈できた.さらに,未知の学習対象である統計学を題材に発見学習のみを行わせ,その過程を分析した.結果,適切な課題であれば,問題吟味に時間をかけ,一度解が出ても何度も吟味し,その中から問題のエッセンスに関する気づきが疑問として生まれる過程が確認できた. 「疑問を率直に感じて話し合う経験の蓄積が,問題を自主的に解いたり,そもそも問題を問題として捉えたりする準備を整える」という仮説を平成24年度以降に検討する.そのために,中高の理科授業の実践案を作成中である.また,こうした発見学習は単元全体など長期スパンでの学習を受容学習よりかえって効率化することも期待できる.そのための基盤となる小学算数授業の実態観察も行った.
2: おおむね順調に進展している
概要に記したとおり,研究代表者の研究成果は,学会にまとめて報告し賞を得るなど順調に進展している.分担者も次年度以降の実践に備え,小学校の算数授業の参与観察を行い,問題解決場面で,他者との考えの交流を促し,深い理解に至るための授業デザインについて検討することや,中高理科授業の実践をデザインするためのチームを組織し,数度にわたって課題や学習活動を洗練するなど,順調に準備を進めている.
発見学習において,学習者が生成する疑問を軸に理論化をはかる.具体的には「学習者が疑問を率直に感じて話し合う経験の蓄積が,問題を自主的に解いたり,そもそも問題を問題として捉えたりする準備を整える」という仮説を平成24,25年度に検討する. そのために,平成24年度は,次の3つの研究を展開する.一つは,中高の理科授業の実践である.天体の動きの単元を対象に,協調学習を未体験の生徒が,随時課題について話しあってからレクチャを聞くという活動を入れることで,各時限の理解と次の時限に関わる疑問の生成を徐々に可能にすることを検討する.その疑問の生成と記録のためにITも活用する.天体の動きは多くの要素が複雑に絡み合う単元であるため,従来の教え方はどうしても断片的にそれらを詰め込むものになりがちである.ここに知識統合的な活動を入れることの効果を検証する.また,小中学校は,指導要領や学校独自の制約により,あまり大規模な発見学習や協調学習は難しい.その制約の中で,かえって何を話しあうかという活動デザインが研磨されることを期待している.二つは,小学校算数授業の参与観察と介入実験である.主に「発見学習は単元全体など長期スパンでの学習を受容学習よりかえって効率化する」という仮説を検討する.発見学習では,初期段階の試行錯誤に多大な時間がとられるが,それがかえって児童に積極的な疑問を生みだすことを可能にし,その後のレクチャの受容や活用を促進することが期待できる.そうなると,単元全体でみたときの効率をむしろ高めると考えられる.その基盤となる小学算数授業の参与観察は平成23年度から既に手掛けており,24年度はそれと対比できる協調学習の実践研究を行う.三つは,以上を統合した理論化である.またその理論をさらに転成するため,多様な分野,多様な対象(研究者も含む)の学びの場面での実践的な検証を行う.
研究費は,実験実施のための記録装置購入および謝金,実験実施後は研究成果発表のための旅費,論文化のための英文校正費,各種シンポジウム,研究会の開催費,旅費に利用する.
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児童心理
巻: 2011年7月号 ページ: 21-27
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