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2012 年度 実施状況報告書

未来の学習を準備する協調的発見学習の理論構築

研究課題

研究課題/領域番号 23530874
研究機関国立教育政策研究所

研究代表者

白水 始  国立教育政策研究所, 初等中等教育研究部, 総括研究官 (60333168)

研究分担者 高垣 マユミ  実践女子大学, 生活科学部, 教授 (50350567)
河崎 美保  追手門学院大学, 心理学部, 講師 (70536127)
キーワード協調学習 / 発見学習 / ICT教育 / 複数解法 / 算数授業 / 科学的協調学習
研究概要

本研究は,理数科目を対象として「協調的に問題を解いてから理論を教わる協調的な発見学習法」と「教わってから協調的に問題を解く受容学習法」を対比し,効果を単元理解と未来の学習への準備の2指標で評価し,成功例のプロセスを分析することで,いつ,何を発見させて,何を教えるべきかをガイドできる協調学習理論を構築することを狙ったものである.
平成24年度は,中学生を対象に,肉眼では確認できず高度なイメージ力を必要とする「地球と宇宙」の単元のカリキュラム他を開発し,ICTを用いて発見的な協調学習を実施した.その結果,生徒が話しやすいように教員が課題を分割し,スモールステップで正誤判断をし易くすることが,逆に,多様な解・解法の生成を妨げ,ICTの利点を生かし難くすることが示唆された.また,小学校の算数授業に関して,授業の各段階に掛かる時間の教員の予測と実測値をグラフにして教員のリフレクションを促す手法を開発し参与観察を行った.その結果,授業最初の個人での問題解決と最後のクラスでの練り上げに予測以上の時間が掛かっていた.これは,児童一人ひとりの理解度が高くないと話し合いに入ることができないと教員が判断し,机間巡視に時間を取りすぎ,それにより計画していた小グループでの議論を省略すること,そのために児童の理解度が上がっておらず,難しすぎる練り上げ課題に対して児童から答えが出るのを待っても出てこないことに拠ると考えられた.最後に,こうした知見をもとに,Productive Failure(発見学習時の失敗が転移課題の生産的な解決を可能にするとの立場)を主張するKapuir氏とシンポジウムを行い,1)学習者にとって興味深く多様な解・解法を生成できる課題を用意する重要性,2)教師が「学習とは知識統合を介した概念変化であり,そのために多様性が必須であること」を理解することの重要性が浮かび上がった.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

本研究は,全年度トータルの目的として,小学校から大学までの理数科目を対象として,「協調的に問題を解いてから公式や理論を教わる協調的な発見学習法」と「教わってから協調的に問題を解く受容学習法」を対比し,効果を単元理解と未来の学習への準備の2指標で評価し,成功例のプロセスを分析することで,「いつ」「何を」発見させて「何を」教えるべきかをガイドできる協調学習理論を構築することを狙っていた.このうち,大学生と小学生の算数・数学については,申請者のアルファサイトを中心に,対比実験や成功例のプロセス分析,理論化を行い,平成23年度に「疑問を率直に感じて話し合う経験の蓄積が,問題を自主的に解いたり,そもそも問題を問題として捉えたりする準備を整える」という仮説を提案するに至った.また,発見学習は単元全体など長期スパンでの学習を受容学習よりかえって効率化することも期待できる.そのための基盤となる小学算数授業の実態観察も行い,準備を整えていた.
しかし,本年度,各申請者のベータサイトへと研究を展開するにあたって,教員が研究者の想定したように協調的な発見学習を展開し難いことが見えてきた.その結果,研究概要に記したような教師の学習観や評価観の変更が要請される研究課題が新たに見えてきた.これは,当初の計画以上の進展だと言える.なお,平成23年度の白水の学会発表,および河﨑・白水の学術論文が賞を受賞するなど,研究への注目も集めている.

今後の研究の推進方策

本研究の最終目的は,現場の教員が使えるような協調学習理論の構築である.そのために,今年度は学校現場と連携を緊密に取り,実践的な研究を展開する.
基礎基本を教えて活用させる授業が,現場教員の経験則的な教育モデルにフィットし易いのに対し,既有知識を与えずに課題に取り組ませる活動は,そのモデルでは想定外のものとなり,教員にとっては抵抗感の強い活動になる.子どもたちの話し合いに学習リソースが不可欠なことも言うまでもない.重要なのは,Kapuirが主張するように,未習の単元であっても,子どもが自らの知識や経験をもとに多様な考えを出せること,および,そのヴァリエーションをもとに規範的な解,解法や理論の理解を深める話し合いができることを教員に「見せる」機会を提供するところにある.その意味で,協調学習にせよ発見学習にせよ,何らかの想定外の「新しい」教え方を試す教育改革は,子どもの姿の変容を通して,教員のビリーフの修正,拡張を迫るところに利点がある.
そのために,平成25年度は,1)中高の理科授業の実践,2)小学校算数授業の参与観察と介入実験,3)以上を統合した協調学習の資料作成および理論化を行う.1)については,例えば,研究概要に記した天文関連の授業において,教員の指定した4つの星座の特定の時間に見える方角を考えさせるのではなく,生徒たちの誕生星座がその月に見えるかどうかだけを考える課題に変えることで,電子黒板に写されるグループの解が多様になり,学習活動が答え合わせから,多様解を統合した天文の仕組みの概念理解へと変化した.これを援用し,生物の単元について教員がICTを使った協調的な発見学習をどのようなものにデザインしがちか,それに対して,その本来的な効果を引き出す授業を研究者と教員で協調的にどうデザイン可能かを検討する.2)については単元など長期スパンでのデザイン研究を上記同様に行う.

次年度の研究費の使用計画

該当なし

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2013 2012 その他

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件) 図書 (3件)

  • [雑誌論文] マルチヴォーカリティが育む未来への学び2013

    • 著者名/発表者名
      白水 始, 遠山紗矢香
    • 雑誌名

      KEIO SFC JOURNAL

      巻: 12 ページ: 53-68

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 認知科学と学習科学における知識の転移2012

    • 著者名/発表者名
      白水 始
    • 雑誌名

      人工知能学会誌

      巻: 27 ページ: 347-358

    • 査読あり
  • [雑誌論文] これからのHRL2012

    • 著者名/発表者名
      白水 始, 大島 純, 今井倫太, 神田崇行
    • 雑誌名

      認知科学

      巻: 19 ページ: 305-313

  • [雑誌論文] 教室におけるアイデア伝播と受容の過程-水の状態変化を事例として-2012

    • 著者名/発表者名
      高垣マユミ, 富田英司
    • 雑誌名

      認知科学

      巻: 19 ページ: 175-190

    • 査読あり
  • [学会発表] 協調的な理解深化を引き出すロボットのリボイシング2012

    • 著者名/発表者名
      白水 始
    • 学会等名
      日本教育心理学会
    • 発表場所
      那覇
    • 年月日
      20121124-20121124
  • [学会発表] 授業研究の最前線-「協同学習」を教育心理学的アプローチから多面的に捉える-2012

    • 著者名/発表者名
      高垣マユミ・藤江康彦・富田英司・松尾剛・鹿毛雅治・小野瀬雅人
    • 学会等名
      日本教育心理学会
    • 発表場所
      那覇
    • 年月日
      20121123-20121123
  • [学会発表] 協調的言語活動の充実を図る授業において教師が経験する困難:学習指導案とのずれの分析

    • 著者名/発表者名
      河﨑美保
    • 学会等名
      日本教育心理学会第54回総会
    • 発表場所
      那覇
  • [図書] 複数解法提示による算数の学習促進効果:混み具合比較課題を用いて2013

    • 著者名/発表者名
      河﨑美保
    • 総ページ数
      139
    • 出版者
      ナカニシヤ出版
  • [図書] 0歳~12歳児の発達と学び:保幼小の連携と接続に向けて2013

    • 著者名/発表者名
      河﨑美保
    • 総ページ数
      206
    • 出版者
      北大路書房
  • [図書] ワードマップ 社会・文化・活動の心理学2012

    • 著者名/発表者名
      白水 始
    • 総ページ数
      295
    • 出版者
      新曜社

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公開日: 2014-07-24   更新日: 2014-11-12  

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