研究課題/領域番号 |
23531074
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
澤田 敬人 静岡県立大学, 国際関係学部, 准教授 (20254261)
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研究分担者 |
津村 公博 浜松学院大学, 現代コミュニケーション学部, 教授 (30310551)
松尾 知明 国立教育政策研究所, 初等中等教育研究部, 総括研究官 (80320993)
白鳥 絢也 星槎大学, 共生科学部, 講師 (40600383)
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キーワード | ブラジル連邦 |
研究概要 |
外国人青少年の学び直しの場におけるeラーニングシステムの構築を通して探究する教育方法の研究を進めており、当研究組織の所在地近くに住む日系ブラジル青年への学習支援に基づく知識を生むのが目的である。外国人青少年の学び直しに関する教育方法の研究に際し、何らかの学習のガイドラインがあるのではなく、学習者が日本社会に適応しつつも彼らのアイデンティティを維持するために最適な学習方法を新たに見出すことが重要であり、当研究組織はその探究のためにテクノロジーを利用しつつも、そのテクノロジーが最も効果を発揮する瞬間の客観的な判定に向けて研鑽しており、本研究課題の意義については、同じような状況にある日本全国の外国人青少年の学習支援に多大な影響を与えるものとして、学界に受け入れられるものと思う。今年度に実施した研究の成果としては、とりわけ自己アイデンティティの表現のために利用するテクノロジーの有用性が見えてきたことから、日系ブラジル青少年たちをまず自律的な活動主体とし組織化させ、そしてその集団によるホームページ作成作業を通じて、彼らの自己表現の実力向上と社会的ネットワーク作りの喜びを統合し、なおかつ学習の場におけるeラーニングによる日本語スキルと基礎的・社会的能力の向上を結び付け、広い意味でのブレンデッドラーニングの有効性に全人的教育の観点から期待が持てることを確認した。また、前年度より継続している映像制作については、研究代表者の澤田は、前年度からの当研究の関係によるブラジル連邦リオデジャネイロ州立大学日本学科からの後援を得て、ブラジル青年が自己表現に向けて参加した映像を、パブリックに上映して語る場を作り、かつ第2作についても、日系ブラジル青年による自律的な映像制作の経過を公表した。映像もあわせてテクノロジーの効果的な利用方法が見えており、全人的な大人への成長に資する実践の研究として充実させたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究課題に参加しているブラジル青少年たちが自立して自分たちのホームページを作成したことは、eラーニングの概念を包摂したブレンデッドラーニングにおけるテクノロジーの利用を重視する当研究課題にとっての重要な成果であり、青少年にとっての次なる学びへとつながる大いなる成果として、後に学問的な知見をもたらすものである。これを客観的な学問的成果とするためには、研究者としてのさらなる観察と分析が必要になる。当研究課題の両輪を成す学習者の成果と研究者の成果を同時に満たす必要がある。その意味で当研究組織では、研究に際し目配りしておく範囲が広く、すべての客観的観察・分析を満足のいく状態とするために努力している。テクノロジーの学習利用として、映像制作、eラーニングのための学習教材開発、ムードル学習管理システムの利用方法の構築など多岐にわたる。とりわけ自己表現のための映像制作は、すでに共同研究者津村公博の所属大学である浜松学院大学の名前による第1作の完成に際して、日本、ブラジル、アメリカの各所で上映シンポジウムを開催しており、ブラジル青少年は映像のプロかと思われるようなトークを披露している。第1作では制作よりも演じる立場での参加であったが、第2作では映像制作そのものを任され、浜松学院大学および近郊のデジタル映像専用のスタジオにおいて、彼らが自律して行う本格的な映像制作を進めている。平成25年3月には、浜松市内の木下記念館において第2作の制作経過発表会を行い、40名の一般・招待参加者を集めた。当研究組織ではマルチモーダルなブレンデッドラーニングとは、学習者としてのブラジル青年が社会的に活躍する場を確保し、テクノロジーを利用して有意義な学びを進めるという意味で使っている。十分な進捗であると思われるが、さらに残された課題があるため、この達成度の自己評価としては、「おおむね順調に進展している」を選んだ。
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今後の研究の推進方策 |
当研究組織では、マルチモーダルなブレンデッドラーニングの定義は学習者の置かれている状況によって、とりわけ運用面で異なるのではないかということがわかってきた。当研究課題では浜松市に住む日系ブラジル青少年の学習指導に資するテクノロジー利用を課題にしており、テクノロジーを社会的な媒介物として、日系青少年コミュニティとその外部とをつなげ、そのおりに自分たちの自己表現をとりわけ重要な活動として位置付け、また、それらの活動を通じて基礎的なリテラシーの習熟(日本語および社会人基礎)を身につける必要がある。この研究組織では、その必要のためのテクノロジー利用でなければならないとの固い推進の方針を掲げており、その必要性をこの浜松における日系ブラジル2世の青少年たちが暮らす文脈において、より説得的に示すためにむしろ観察・分析をより繊細に推進していくことが求められる。今後は、特に観察・分析を進めたい事例を明示しながら研究を行う。いくつか挙げるとすれば、「映像作成における社会的ネットワークの利用と外部環境との連携」、「eラーニング向け学習教材の作成における言語選択(日本語、ブラジルポルトガル語、英語)の問題」、「学習支援システムの利用を通じたマルチモーダルなブレンデッドラーニングの文脈に依存した定式化」である。「映像作成における社会的ネットワークの利用と外部環境との連携」では、これまでの自己表現を目的とした実践から、社会的ネットワークを利用する実践へと進ませ、いろいろな人の協力を得たりする中でどのように学びが拡張し、テクノロジー利用の学習の中でしっかりと位置付けることができるのかを検討する。また、「言語選択の問題」は、当研究課題のような外国人を対象とする場合に必ず現れる課題であり、何らかの解答を出したい。さらに、「文脈に依存した定式化」は、この研究課題の成果における最大の見せ場となるものと思われる。
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次年度の研究費の使用計画 |
前の項目である「今後の研究の推進方針」で示した通り、本研究組織において、今後特に観察・分析を進めたいと思う事例をいくつか明示しながら研究を行う。次年度は、次の3点について、研究費を用いての研究を集中的に進める。①「映像作成における社会的ネットワークの利用と外部環境との連携」、②「eラーニング向け学習教材の作成における言語選択(日本語、ブラジルポルトガル語、英語)の問題」、③「学習支援システムの利用を通じたマルチモーダルなブレンデッドラーニングの文脈に依存した定式化」。これらのうち①に関する研究費の使用計画としては、映像作成に付随するソフトウェア等のデジタルの消耗品、完成作をプレゼンテーションするために必要なユーストリームの利用料やデジタルの消耗品、ホームページの維持費である。②のためには、ブラジル青少年ならびに教科を教える先生が教材を作成したり学んだするときに必要となる消耗品ならびに作成のための人件費である。③のために必要となる研究費は、当研究課題の研究現場である浜松学院大学コンピューター実習室において研究実施に際して生じるソフトウェアなどのデジタルの消耗品、ムードル学習管理システムの利用方法構築に際して生じる消耗品や利用料である。また、①と②は学習現場の具体的な知識を産出し、それらを観察・分析するための研究費であるが、③の場合は、①と②のタイプの研究のほかに、マルチモーダルなブレンデッドラーニングの多文化社会における多様な文脈での定式化という抽象的な内容を含み、それを本研究の観察・分析に基づいて刷新することがねらいであるため、専門書、専門的学術論文などの文献資料の収集を行い、これまで学界で論じられてきたこと(必ずしも教育工学的な内容だけでなく、多文化社会・多文化主義・多文化共生をめぐる哲学的・政治学的・教育哲学的内容を含む。)と本研究課題をつなぐための研究費を必要とする。
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