研究課題/領域番号 |
23540139
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
北本 卓也 山口大学, 教育学部, 教授 (30241780)
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研究分担者 |
柏木 芳美 山口大学, 経済学部, 教授 (00152637)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | 数式処理 / 制御系設計 / 数値数式融合算法 |
研究実績の概要 |
制御系設計における記号と数値の融合算法の応用について、主に次の3つのテーマに関する研究を行った。 1つ目は「一般化されたヴァンデルモンド行列の行列式」に関する研究である。ヴァンデルモンド行列とは (i,j)要素が変数 x_i の j乗である行列であるが、これを一般化した (i,j)要素が f_j(x_i) (f_j(x) は x の多項式で x_i は変数) である行列の行列式を考える。この行列は変数を含むため、行列のサイズが大きくなるとその行列式の計算は計算量的に非常に困難であるが、H2最適問題、H∞最適問題を解くためにその効率的な算法が必要とされている。これに対する部分的な解答を得た。 2つ目は「記号を含んだシステムに対するGKYP補題」である。GKYP補題は、岩崎と原が提唱したKYP補題の一般化であり、制御系設計に広く使われてきている。この GKYP補題は原則として数値システムに対するものであり、記号を含んだものには使えない。そこで記号を含むシステムに適用できる算法を考案した。この算法では、求めるものを多変数多項式の根の形で計算する。このため、記号を残したままGKYP補題に関する計算が可能であるが、計算量と計算結果が膨大なものとなる傾向がある。この問題点に関しては次の3つ目の研究テーマでその解決を試みている。 3つ目は多変数Pade近似に関する研究である。1変数のPade近似についてはすでに多くの研究がなされているが、これを多変数へ拡張した場合、極の存在によりその活用が困難であることがわかっている。そこでQE(Quantifier Elimination)の技術を用いて指定した領域から極を排除した多変数Pade近似を開発した。多項式の根をこのPade近似を用いて近似することにより、上の2つの研究テーマの計算量の増大を避ける事ができると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の研究テーマの1つ目に対しては、これまで得た結果を論文として発表した。その方法は、具体的には変数を含んだ行列の行列式をそのまま計算するのではなく、計算を2つのステップに分け、第一ステップでは形の決まった変数を含む行列の行列式の計算、第2ステップでは変数を含まない数値行列の計算を行う。第1ステップは与えられる行列によらずに決まった行列の行列式の計算なので予め計算しておくことが可能である。第2ステップは数値行列の行列式なので高速に計算できる。数値実験の結果、第1ステップの計算が既に行われている状況下では、実用的な速度で計算が行えることが確認された。ただし、第1ステップの計算はかなり重く、これを効率的に計算することがまだ課題として残っている。 2つ目の研究テーマは、理論的な解析を既に終えており、論文としてまとめる作業が残っている状態である。この研究における計算式の導出はラグランジュの乗数法より導出できるが、先に行ったパラメータを含むシステムに対するH∞最適問題の一般化とみなすこともできる。実際、適当な条件下で式変形を行っていくとH∞最適問題で用いた計算式に変形できることが確認された。 3つ目の研究テーマも、論文として今年度発表する予定であり、現在、準備中である。ここで用いる算法は理論的には問題ないが、実用上は QE を用いているため、計算が重くなりがちであるという問題点を抱えている。この3つ目の研究テーマは2つ目の研究テーマを実用化する際に重要な意味を持っているので、この計算量の問題点を解決するべく更なる研究を続けている所である。 以上、研究は進んでいるが、まだ課題が残っており、また論文としてこれから発表していく研究テーマもあることから「やや遅れている」と判定した。
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今後の研究の推進方策 |
上記の1つ目の研究テーマについては、部分的な解答を得、論文として発表したが、上で述べたようにまだ完全な結果とはいえないため、継続して研究している所である。具体的には、変数を含む形の決まった行列の行列式を計算する必要がある。形が決まっているので、大規模な計算機で長時間かけて計算してしまえばそれでとりあえず解決はするが、きれいな形をしているので、漸化式などから計算する可能性などを追求していきたい。 2つ目の研究テーマについては、論文としてまとめて発表していく。その後はその応用についての研究を進めていくが、その際には計算量の増大に以下に対処するかがポイントとなると思われる。これについては次の3つの目の研究テーマと関わることなので、3つ目の研究テーマと共に研究を進めていく。 最後の3つ目の研究テーマについては、まずその理論を論文として発表して後に実際に制御系設計問題に活用していく必要がある。上に述べたようにこの研究テーマは2つの研究テーマの実用化のキーとなっており、実用上重要である。現在考えている算法では QE の計算を必要としているので、QE の計算を必要としない算法、または問題に特化した QE を使う算法について検討していきたい。
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