研究概要 |
散乱理論において最も重要な問題の1つとして散乱行列の特徴付けが挙げられる。当該研究では、スペクトルが単純かつ絶対連続な自己共役作用素の特異ランク1摂動の族について、対応する散乱行列の特徴付けを得た。また、得られた結果を学術雑誌において発表した(K. Yoshitomi, Inverse scattering problems for singular rank-one perturbations of a selfadjoint operator, Asymptotic Analysis 80 (2012), 213-221)。ここで、研究の背景と得られた結果の意義について述べる。散乱行列の特徴付けに関する重要な仕事として、1979年のP. DeiftとE. Trubowitzによる結果が挙げられる。彼らはポテンシャルが重み付きL1空間に属する、1次元Schroedinger作用素の散乱行列の特徴付けを与えた。当該研究は抽象的な枠組みで行っており、得られた結果はより特異性の強いポテンシャルに従うSchroedinger作用素の散乱行列の特徴付けを含む。また近年、強い特異性をもつポテンシャルに従うSchroedinger作用素の研究が盛んに行われている。そのような典型例として点相互作用が挙げられる。当該研究は点相互作用(特にδ'型点相互作用)と非常に密接に関係している。また、結果の証明で用いた手法は複素関数論的である。この意味で、得られた結果は学際的であると言える。
|