柔粘性結晶は、柔らかい性質を持った結晶である。結晶が柔らかい性質を示すのは、結晶中で構成粒子が自己拡散運動を起こしているためである。つまり、イオン結晶で柔粘性を示す物質は,固体イオン伝導体材料に応用することができる。しかし、イオン結晶の場合、イオン間相互作用が大きいため分子性結晶に比べ柔粘性結晶があまり多くは発見されていない。また、分子結晶が室温近傍で柔粘性を示すのに比べ、柔粘性イオン結晶は高温領域に存在することが多い。これは、固体電解層への応用する際の大きな課題であった。本研究では、陽イオンと陰イオンの電荷を離すことで、相互作用がイオン性から分子性に近づくと考え、アルキルアンモニウムとアルキルボレートイオンからなる塩を研究対象とした。その結果、新たに16種類の新規柔粘性イオン結晶を発見した。さらに、これらすべてが室温で柔粘性を示し、約10-3 S cm-1と大きな伝導度を持つことも示した。つまり、イオン間の相互作用が分子性に近づけた、柔粘性イオン結晶の新領域の開拓に成功し、多くの新規柔粘性イオン結晶を短期間で発見することができた。なお、柔粘性を示さない物質でも、イオン伝導度を持つことも明らかになったので、今後のイオン伝導度研究の方向性を示すことに貢献できた。なお、この研究を通して球状イオンが柔粘性を示し、大きなイオン伝導度を示すことも明らかとなったので、本研究では、新領域をさらに発展させ、籠形イオンからなるイオン結晶の研究を行った。その結果、さらに6種類の柔粘性イオン結晶の発見につながった。これらの結果をリチウム塩に応用したところ、アルキル硫酸エステルのリチウム塩でリチウムイオン伝導体を発見した。本研究は1価のイオンを用いたが、新領域を用いることで、まだ発見されていない2価の柔粘性イオン結晶への応用が期待できる成果が得られた。
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