研究課題/領域番号 |
23560801
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
向田 昌志 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50302302)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 超伝導 |
研究概要 |
本研究の目的は、「日本が提案する二酸化炭素などの温室効果ガスを、2020 年までに1990 年比で25% 削減する」計画において、最重要課題である無損失電力線実用化のためのブレークスルーを抽出することにある。高磁場中で200A を超える電流を流せる数ミクロン厚の超電導線が、2025 年の先行開業が決まっているリニア中央新幹線やNMR・MRI 等に用いられてこそ、二酸化炭素(CO2) などの温室効果ガス削減効果が顕著となることから、超伝導電子対の対破壊電流密度からかけ離れて低い現在の臨界電流密度(JC) を向上させる新奇な作製プロセスを導入し、液体窒素温度(-196°C) においても、高磁場中で大電流を流すことのできる超電導線材を開発することを目的とする。実施計画では、初年度は、強い超伝導特性の発現がない原因の究明を中心に行う。酸素が抜け、超伝導転移温度が下がってくると、正方晶の結晶構造となる。不定比酸素の量が多いとき、c-軸長が短く、酸素量が減るに従い、c-軸長が長くなることが知られている。これまでの研究結果から、人工ピンニングセンタ材料(例えば、BaZrO3) を添加した超伝導膜を作製すると、超伝導転移温度が劇的に低下することが分かっている。そのため、本研究では、人工ピンニングセンタ材料を入れて磁場中超伝導特性を向上させた膜の超伝導転移温度を、人工ピンニングセンタ材料を入れていない膜と同等の超伝導転移温度まで、戻す、さらに物質本来の「強い超伝導特性」が発現し、対破壊電流密度の25% 以上という高いJC を実現するために、以下の可能性の可否を最初に追求する予定であった。ところが他研究室の学生に、当研究室の装置を壊されるという、予期せぬ事態に直面し、当初計画よりも遅れている状況ではあるが、他研究機関の協力により、実験を進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
他の研究室の学生に壊された装置の修理も、人手不足からままならず、計画よりも遅れている状況であるが、住友電気工業、産業総合研究所の協力を得て、現在よりも低コストな超伝導線材を用いて強い超伝導特性の発現がない原因の究明を行っているところである。具体的には、共同研究を行っている産業総合研究所の山口博士等が開発したFF-Metal Organic Decomposition溶液、住友電気工業が開発しているNiクラッド基材を用いて、FF-MOD熱処理の最適プロセス条件を検討しながら、研究を進めた。膜の評価は、X-線回折法により、配向性、out-growthの検出を行い、微細組織は、共同研究を行っている電力中央研究所の一瀬主幹研究員らと透過電子顕微鏡観察により行った。以上によりこれまでにないプロセス条件での超伝導膜の作製が可能となり、新たな強い超伝導特性を発現できる可能性のある大きな作製領域が広がった。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、サイト間固溶を回避する方法を確立することを目的とする。サイト間固溶回避法として、次の2通り考えている。1) 作成時にサイト間固溶をさける方法2) 薄膜作成後長時間熱処理でサイト間固溶を是正する方法。膜作成中回避法 超伝導膜の作製では組成制御性に優れるエキシマレーザー蒸着法 [1] を用いる。前述したように、不活性ガスを高圧に真空装置内に導入 (真空装置とは呼べないほど) し、Ba や Cu の再蒸発を防ぎつつ、基板温度を下げることなく、Tetragonal 領域で膜成長する条件を探索する。そのためには、最初に、どのような全圧で、どのような酸素分圧の時、Orthorhombic-Tetragonal 相転移が起こるか、また、Tetragonal-分解溶融が起こるかの領域を調べておく必要がある。これに関して、我々は、手持ちの示差熱分析計に真空排気装置を組み込み、各種条件下で、Orthorhombic-Tetragonal 相転移境界、Tetragonal-分解溶融境界を明確にする。もちろん、薄膜作成時は、レーザープルーム (高濃度のプラズマ) が発生しているため、活性酸素が増えており、静的示差熱分析計の条件とは若干異なるとは思われるため、薄膜作成後の膜表面観察、断面微細構造観察を通して、分解溶融が起きているかどうかを判断する。一方で、悪意のある学生が育たないよう、また健全な研究室の活動ができるよう、大学当局に引き続き、働きかけていくとともに、データをねつ造しない、嘘をつかない学生を育てていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
壊された装置の修理(恒温熱処理炉)で300千円、エキシマレーザーの酸素ガス導入系および修理800千円、測定装置系を立ち上げるよりも、電流輸送特性評価を共同で行ってくれる他大学研究機関への出張測定(600千円)、成果報告としての学会発表と材料の購入費500千円、その他の事務用品で80千円を計画している。
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