研究課題/領域番号 |
23560848
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
森 嘉久 岡山理科大学, 理学部, 教授 (00258211)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 熱電素子 / 高圧合成 / 放射光 / シリサイド系半導体 |
研究概要 |
当研究の目的は,人体に無害で埋蔵量が豊富にあるシリサイド化合物の熱電材料に焦点を絞り,当研究室が保有している高温高圧の合成技術や高圧下での物性評価技術を駆使して,高効率な熱電材料を合成することである.具体的なシリサイド化合物としては,近年N型のみのモノレグ構造の熱電モジュールとして開発されたMg2Siに注目し,まずは更なる変換効率の向上に不可欠なP型のMg2Siの熱電材料の開発を目指す.初年度取り掛かる研究内容としては,現在合成されているMg2Siの合成環境を整えて,同等の熱電性能を有する素子を合成するとともに,その物性を調べることである.震災の影響により科研費の配分額が決定しないだけでなく,備品として購入する予定の水素還元炉の購入が危ぶまれ,初年度前半は既存の石英管の真空封入による常圧合成を行った.Mg2SiはMg の沸点(1363K)とMg2Si の融点(1358K)が近いために合成が困難であるが,当研究室でもその問題に直面し,炉爆なども何度か経験した.後半になり当研究室に水素還元炉が納入され,還元雰囲気で合成できるように整備された.現在その調整が行われているが,今後はその電気炉を使用して還元雰囲気中で常圧合成を行う計画である.上記のように研究室での常圧合成を行うとともに高圧合成も実施している.実際の高圧合成は三朝(鳥取県)にある岡山大学地球物質科学研究センター(ISEI)にあるピストンシリンダー装置により行っているが,初年度においてかなりの数の試料を高圧合成することが出来た.また高圧合成をする際,その合成圧力や温度およびその調整時間など多くのパラメータがあるが,最適な合成条件を見出すためにPF-AR(つくば)での高温高圧X線回折実験も行い,合成条件の参考にした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の計画は,シリサイド系熱電材料のMg2Siの基礎データを収集することに研究課題の重点を置いてる. Mg2Siの合成が困難な要因として,Mg の沸点(1363K)とMg2Si の融点(1358K)が近く,Mg 蒸発による組成のずれ,Mg 粉末による粉塵爆発の危険,不純物の混入や,Mg が酸化することで合成物が劣化する問題などが研究課題である.まず取り掛かることとして,還元雰囲気での合成を行うために水素還元炉を科研費の備品で購入し,調整を行うことであったが ,震災の影響により科研費の配分額が決定されないだけでなく電気炉の購入も危ぶまれたため,ほとんど研究が進まない状態であった.出来る実験としては石英管に真空封入して常圧高温で反応させることであり,組成の微妙な調整を行いながら純粋なMg2siを合成することを目指した.しかしながら石英管の真空封入による常圧合成実験では,空気との反応による炉爆が頻繁に起こり,進展がほとんど望めない状態であった.9月になり,震災の影響により納入時期は遅れたが無事水素還元型の電気炉が納入されたので,その後は還元雰囲気下での合成を中心に実験を行うことにした.まず,電気炉の調整とそれと組み合わせる熱電性能測定用の装置を改良することであるが,その改良にかなりの時間を要したため,実際の合成はほとんど出来なかった.一方,高圧合成はISEI既設のピストンシリンダー装置が整備されているので,その高圧合成は計画通り進んだ.また高温高圧合成時の結晶構造の微細構造を調べるためのXRD 実験は,すでに確保していたPF-ARにおける共同利用実験の課題を活用して順調に行い,合成時の高圧構造物性も明らかとなった.全体的にみると,常圧の試料合成が遅れ気味であることと,合成試料の熱電性能測定が遅れているのが現状であるが,高圧合成や高圧構造などの実験は順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の研究を通じて,常圧合成の試料だけでなく高圧合成された試料も数多く合成され,その構造もXRD実験により明らかとなった.本年度はまず遅れている熱電性能測定の装置開発を急いで仕上げることである.熱電の測定装置は既に研究室に存在するが,手動装置であることや小さい試料に対応していないなどの課題が出てきた.高圧合成された試料はその合成の制約から非常に小さい試料しか得られないので,それを既存の装置で測定すると,サンプリングする人によってデータにばらつきが生じることが明らかとなった.そこでそのような小さな試料であってもサンプリングする人に依存することなく精度よく測定できる装置の改良が必要である.まずは本研究室にあるCAD+CAMとNCフライスを活用してその測定用基板を作成し,測定装置の精度向上と効率化を図りたい.上記の測定結果をもとにして,常圧下での最適合成条件を調べるとともに,2 年目の研究計画であるP型 Mg2Siの合成にも取り組む.P型 Mg2Siに関してはその置換元素をAgだけでなく他の置換元素も考慮しながら最適な置換元素の探索を行う.また,これまでの予備実験で良い結果を示している高温高圧下での合成実験にも取り組み,その圧力によって熱電性能にどのように効果がもたらされているのかを明らかにする.なお,研究遂行のためにPF-AR のXRD 実験やISEI での高温高圧合成実験,岡山セラミックセンターなど学外の共同利用研究施設での研究を積極的に行い,結晶構造と高圧合成,熱電性能測定の実験手法を,繰り返しフィードバックすることで,より高い熱電効率を有し,長時間放置にも耐える安定したP 型Mg2Si の合成を目指していく.
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度は,水素還元炉の納入が遅れ,さらにその立ち上げと装置改良に時間を費やしたために,常圧での合成実験がほとんど進展せず,計画していた原材料費や試料構成部品(熱電対,ヒーター,断熱材,リード線・・・)などの消耗品をほとんど使用しなかった.繰り越した消耗品に関しては,今年度の測定装置の改良や立ち上げ後の合成実験に必要な原材料や熱電性能測定の試料構成部品などの消耗品を購入する.また装置自動化の制御をするためのパソコンなども購入予定である.また備品として試料研磨機の購入を考えている.当初,ダイヤモンドカッターを計画していたが,近くの研究室から借用できるようになった.一方試料研磨機は,熱電測定を行う際,試料表面の状態によりその測定値にばらつきが生ずることがあったのでそれを是正するために必要と判断した.それ以外にはPF-ARやISEI,岡山セラミックセンターなどにおける学外の共同利用実験において不可欠な学生への謝金などを計上している.旅費に関しては,情報収集のために参加する国内の学会発表だけでなく,これまでの研究結果を広く公表するために,本年度フランスにて開催される第15回高圧半導体国際会議に出席・発表を行うのでその旅費の支出も行う計画である.
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