研究課題/領域番号 |
23560848
|
研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
森 嘉久 岡山理科大学, 理学部, 教授 (00258211)
|
キーワード | 熱電素子 / 高圧合成 / 放射光 / シリサイド半導体 |
研究概要 |
当研究の目的は,環境にやさしい半導体を主成分としたシリサイド化合物の熱電材料に焦点を絞り,当研究室が保有している高温高圧の合成技術や高圧下での物性評価技術を駆使して,高効率で付加価値の高い熱電材料を合成することである.具体的な材料としては,Mg2Siをターゲットに絞り,その高圧下での基礎物性を明らかにしながら合成が期待されているP型のMg2Si熱電材料の開発を目指している. 初年度の取り組みで,水素還元炉の導入が行われ,常圧で合成されているMg2Siの合成環境をほぼ整備することができ,同等の熱電性能を有する素子の常圧合成が可能となった.また,その熱電性能を調べるための測定環境もほぼ整備され,当研究室においてもその材料の熱電性能を評価できるようになった.実際に熱電性能の測定を行うと,その試料の形状やリード線との接触が不安定で,再現性のあるデータを取るための工夫が必要となった.そこで今年度,ダイヤモンドカッターと試料研磨機を購入し,合成試料の形状や表面状態を均質にした結果,これまで以上に再現性の良い熱電性能特性を取得することが可能となった. 一方,高圧合成を本研究室で実施することはできないが,実験計画通り三朝(鳥取県)にある岡山大学地球物質科学研究センター(ISEI)に設置しているピストンシリンダー装置を使用して高圧合成を行うとともに,得られた合成物はX線回折実験により構造の評価をした.昨年度までは得られた合成試料は非常に小さく,その後の熱電性能測定が困難であったため,本年度は大きな試料を合成するためのペレッターを製作し10mmサイズの大きな合成試料を得ることにも成功した. 課題としては,初年度より探索している高圧下での合成条件(圧力,温度,時間)の最適化には到達していないので,今年度も放射光施設PF-AR(つくば)での高温高圧X線回折実験を通して,合成条件の最適化を目指していく.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目の計画としては,熱電材料Mg2Siの高圧合成の効果を検証しながら,実際に熱電材料の高圧合成を実施するとともにその合成物の基礎物性を調べることである. 空気雰囲気中での合成では,Mg2Siは合成されるが,出発原料のMgやSiの酸化も促進され,その酸化物が熱電性能や材料の耐久性に問題を引きおこすことが明らかとなった.水素還元炉での合成では酸化が抑制されるため上述の課題は軽減されるが,Mg の沸点とMg2Siの融点が近いために生ずる組成のずれの課題は残されている. 一方,高圧合成では,還元雰囲気であるBNカプセルに原料を入れて,密封状態ので高温高圧合成を行うため,酸化やMg蒸発による組成ずれなどの影響を受けにくいと考えられる.この高圧合成の有用性の有無を明らかにするために,放射光施設PF-ARでの高温高圧X線回折実験を行った.出発試料の粒径や混合比,合成圧力,温度,時間などのパラメータを変えながらXRD実験を行った結果,高圧合成が上記課題を克服するのに有用であることが分かった. その熱電性能を評価するための装置は初年度に整備されたが,実際に測定してみるとそのデータの再現性に問題があることが分かった.この原因として,高圧合成で得られる試料サイズが小さくその試料の形状や表面状態にもばらつきがあるためと考えられる.そこで急遽予算を前倒し請求し,試料サイズを整えるためのダイヤモンドカッターと試料表面を研磨する研磨機を購入した.これら装置の導入によりデータの再現性は飛躍的に向上し,5ミリ程度の試料であってもその熱電性能が測定できるようになった.なおこの装置を使用するにあたり,まずSPS焼結した標準試料を市販装置(ZEM-3)で測定し,その同じ試料を5ミリ程度に加工,研磨して当研究室の装置で測定することで校正をしている. 以上のように課題は残されているがほぼ計画通りに進展している.
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究を通じて,常圧合成の試料だけでなく高圧合成された試料も数多く合成され,その構造もXRD実験により明らかとなった.また熱電性能測定の装置開発も計画通りに改良され,自動測定で、かつ試料表面の状態が常にほぼ同じ状態で安定した測定ができる状態にまで整備されてきた.また高圧合成された非常に小さい試料であってもサンプリングする人に依存することなく精度よく測定できるための測定基板も測定され,測定装置としての精度はかなり向上した. 今後は,これまで高圧合成した試料の熱電性能測定を行い,その性能と合成条件の相関を調べながら最適合成条件を調べていく.また当初の研究計画において現在遅れ気味のP型 Mg2Siの合成にも本格的に取り組んでいきたい.P型 Mg2Siに関してはその置換元素をまずはAgにターゲットを絞り高圧合成の効果を明らかにしていく.更に他の置換元素も考慮しながら最適な置換元素の探索を行っていきたい.なお,研究遂行のためにPF-AR のXRD 実験やISEIでの高温高圧合成実験,岡山セラミックセンターなど学外の共同利用研究施設での研究を積極的に行い,結晶構造と高圧合成,熱電性能測定の実験手法を,繰り返しフィードバックすることで,より高い熱電効率を有し,長時間放置にも耐える安定したP型Mg2Si の合成を目指していく.
|
次年度の研究費の使用計画 |
備品計画を前倒して今年度にダイヤモンドカッターと試料研磨機を購入し,測定精度が向上することが出来た.次年度は,仕上げの年としてPF-ARやISEI,岡山セラミックセンターなどにおける学外の共同利用実験をフルに活用して,研究を遂行する.そのために研究の使用計画として,共同利用実験の旅費や実験補助をする学生への謝金などを計上している.また情報収集のために参加する国内外の学会発表だけでなく,これまでの研究結果を論文として投稿するための原稿の校正費用なども支出も行う計画である.
|