熱電変換材料は排熱エネルギーの有効利用として注目されており,研究が盛んに行われている.特に注目されているのが人体に無害で埋蔵量が豊富にあるマグネシウムシリサイド(Mg2Si)で,日本を中心に積極的に研究がなされている.本研究の目的は,その熱電材料に焦点を絞り,高温高圧合成により高効率な熱電材料を合成することである. 材料の構造物性を明らかにすべく,放射光施設PF-ARでの共同利用実験を活用し,高圧XRD実験を行った.Mg2Siの合成が困難な要因の一つとして,Mg の沸点とMg2Si の融点が近く,Mg 蒸発による組成のずれが考えられているので,そのずれを高圧封止技術で克服できるかを調べた.高圧XRD実験と研究室での常圧合成実験を比較した結果,常圧では化学量論比からずれてしまう試料でも,高圧セルの中に封じ込めることで合成出来ることが明らかとなった. ピストンシリンダー装置で高圧合成した試料の大きさは5mm程度のサイズで,市販の装置では評価できないので,小さい試料用の熱電性能測定装置の開発も行い,3mm程度のサイズでも安定して熱電性能が測定できる装置を開発した. その後,世界的に求められているP型 Mg2Siの合成を目指すべく,置換元素をAgに絞って高圧合成実験を行った.Ag置換によりP型伝導になることはこれまでにも報告があったが,高圧合成でも同様にP型伝導を示すことを明らかにした.課題としては,その熱電性能の安定性であり,昇温・降温を繰り返すうちにベースのN型伝導が優位となって,P型伝導を示さなくなることである.そこで,安定したP型伝導のMg2Siの合成を目指して,圧力や温度,その保持時間などのパラメータを振りながらXRD実験を実施し,P型伝導のMg2Siにとって最適な高圧合成条件を調べた.その結果,これまで以上に安定したP型伝導を有したMg2Si熱電材料を合成することに成功した.
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