研究課題/領域番号 |
23570007
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藤原 学 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70359933)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 分子遺伝学 / C. elegans / 行動 / 生殖腺 |
研究概要 |
線虫は生殖細胞の有無により特定の匂いに対する誘因行動が変化する。本研究課題は、この現象をモデル系として個体の内的状態が感覚行動に及ぼす影響とその分子および神経メカニズムを明らかにすることをめざすものである。すでに、RNAiによる網羅的な機能分子の探索によってミトコンドリアの関与が示唆されていたため、まずその時期的および場所的な関わりを解析した。生殖細胞を失った成虫は正常な成虫に比べて匂い物質ジアセチルへの走性が低下する。これはミトコンドリアの機能分子、例えば電子伝達系のcco-1遺伝子のRNAiによる発現阻害で回復する。体の様々な組織においてそれぞれ特異的にcco-1遺伝子の発現阻害を行ったところ、神経系での阻害によって最も強くジアセチルへの走性回復が見られた。また、発生の様々な時期にcco-1遺伝子の発現阻害を行ったところ、幼虫期の発現阻害が最も強くジアセチルへの走性回復を引き起こした。つまり、生殖細胞が盛んに増殖しているはずの幼虫期に生殖細胞が正常に増殖しないと、この時期の神経系のミトコンドリアの働きを介して、将来成虫になった際にジアセチルへの走性が低下すると考えられた。 ミトコンドリアのどういった機能がこのような制御を可能にしているのか、まず、ミトコンドリアの活性をモニターするため神経細胞でのATPレベルの可視化を試みた。線虫にATP感受性FRETプローブATeamを導入したところ、神経細胞での発現を確認できた。さらに電子伝達系の阻害剤の投与により、生きた線虫の神経細胞内でのATPレベルの低下を確認することができた。現在、このツールを利用して、生殖細胞の有無によるATPレベルの変化を詳細に調べているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生殖腺からの制御を受ける感覚行動について、発生初期の神経系でのミトコンドリアの関与を明らかにできたことは評価できると考えている。一方で、神経系のミトコンドリアの関与をさらに詳しく調べるために、線虫の持つ300個の神経細胞のうち特にどの神経が大事な役割を果たしているのか、様々な神経細胞セットでのcco-1阻害実験を行ったが、結局、そのような強い効果をもつ神経細胞セットを特定することが出来なかった。そもそも限局された神経細胞の機能ではない可能性も高いが、結果として神経回路を細胞レベルで解析できる線虫ならではの特性を活かすことができず比較的時間をかけて行った実験だけに、研究計画における時間配分に悔いが残った。
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今後の研究の推進方策 |
ATeamを用いたイメージング解析を進める。また、実施計画で述べた順遺伝学的解析も進行しており、生殖細胞がないにも関わらずジアセチルへの走性低下を示さない変異体の単離および染色体マッピング、whole genome sequenceによる候補原因遺伝子のリストアップまで既に進んでいる。リストアップされた遺伝子にはミトコンドリアの機能に関わるものは含まれておらず、全く新しい機能因子が同定できそうである。さらに、生殖細胞がないときの行動変化として、匂いに対する順応にも異常が見られることを新たに見いだしており、感覚応答の変化についてさらに広がりをもった解析を行いたいと思っている。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は採択の決定が遅れたこともあり既存の設備で解析を行い、次年度以降の予算と合わせて顕微鏡などの比較的大型の機器を買うことを計画している。また、whole genome sequence による変異体の解析が本研究課題においても有効な手法であることが分かったため、こちらにも予算を一定振り分ける予定である。
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