研究課題/領域番号 |
23580249
|
研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
舞田 正志 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 教授 (60238839)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | メタボロミクス / 血漿成分 / 高密度ストレス |
研究概要 |
平成23年度は、ティラピアを用いて高飼育密度ストレスを負荷し、飼育期間を追って血漿化学成分の網羅的な解析によってティラピアのストレス状態の把握を行うことを目的として研究を行った。 ティラピアを60L水槽に,欧州連合で適正飼育密度として推奨されている3.7 ± 0.1 Kg m-3となるように収容し、これを対照区とする。同様に設置した水槽で、単位水量当たりの収容密度が40.1 ± 4.9 Kg m-3となるように穴の開いたアクリル板で仕切りを設け、高密度ストレスを負荷した。60L水槽への注水量やエアレーション等の条件は同一とすることで、高密度飼育による水質悪化や溶存酸素量への影響を排除した。 一般に高密度飼育は魚類へのストレッサーと認識されているが、溶存酸素量の条件を一定にした場合には、ストレス指標となるコルチゾールの上昇は見られないにも関わらず、RNA/DNA比及び成長の低下と電解質及び血漿浸透圧の低下が見られることが明らかになった。血漿電解質及び浸透圧の低下はストレス反応として一般的に認められる変動であるが、これに付随する変動として血漿グルコースの上昇が見られるはずである。しかし、1週間の高密度飼育では有意に上昇したが、2週間の高密度飼育では逆に有意に低下しており一般的な変動とは異なることがわかった。この結果は、血漿グルコースが高密度飼育ストレスに対し適応する過程でエネルギー代謝の変動を伴うことを反映したものと考えられた。このように、血漿コルチゾール値が高密度飼育による影響の指標として使えない場合でも血漿電解質及び浸透圧の低下は、その影響を反映する指標となり得ることが明らかとなった。また、血漿グルコース値は高密度飼育による影響を反映する指標となり得るが変動傾向は魚類が高密度飼育環境下におかれた期間の長さによって異なることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により、溶存酸素条件が一定の下での高密度飼育による影響を結晶化学成分の網羅的解析により、従来のストレス指標では把握できない影響を血漿電解質及び血漿グルコース値によって検出可能であることを明らかにできた。また、血漿グルコース値には、高密度飼育への適応過程でエネルギー代謝の変動を伴う可能性があることを明らかにでき、本研究課題の仮説の一端が証明できた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成23年度の研究成果により、本申請課題の仮説の一端が明らかにできたことから、当初の予定通り、平成24年度は、エネルギー代謝の変調に関するメタボロミクスを中心に研究を進める。ストレス負荷時の血漿成分の変動から、エネルギー源として脂質、糖質、アミノ酸の何れを多く消費するかが大きなエネルギー代謝の変化であると予測している。個々の代謝産物が最終的にはTCAサイクルに入っていくことになるが、何れの栄養素をエネルギー源として、より多く消費するかをTCAサイクルに入る前の代謝産物をモニタリングすることで明らかにする研究に取り組む。血漿中の成分の上昇あるいは低下は、需要の増大に伴う合成量の増加と消費量の増加との差し引きで起こるため、実際に起こっているエネルギー代謝の実態を見ているわけではない。したがって、メタボロミクスを導入して、実際にどのようなエネルギー代謝の変化が起こっているかを把握する必要がある。筋肉中ではグルコースからピルビン酸を介してアラニンを生成し、アラニンが肝臓に戻ってピルビン酸からグルコースへの合成または脱アミノ化による尿素への代謝を行うアラニンーグルコースサイクルのように、グルコース、アミノ酸の代謝は相互に関連している。一方、糖質の供給が不十分な状態になると脂肪酸の分解系が活性化するなど糖質と脂質の間にも代謝相関が見られることが知られている。ストレス負荷中のエネルギー代謝においては、糖質、アミノ酸、脂質の代謝相関に注目する必要があり、グルコース6リン酸、ホスホエノールピルビン酸、ピルビン酸などの解糖系代謝産物、グリセロール、アセチルCoAなどの脂質代謝産物、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸などのアミノ酸組成を定量解析することによって、ストレス負荷時の代謝変化を捉える。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度に繰り越す研究費はない。
|