研究課題/領域番号 |
23590291
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
上嶋 繁 近畿大学, 農学部, 教授 (30193791)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 脂肪細胞 / 血管内皮細胞 / 動脈硬化 / 天然資源物質 |
研究概要 |
脂肪細胞に大量の油滴が蓄積して生じる肥満は動脈硬化を進展させ、心筋梗塞や脳梗塞などの生活習慣病の発症にかかわる。しかし、動脈硬化巣の血管内皮細胞障害部位に血管内皮細胞が遊走して障害部位を完全に覆うことによって動脈硬化の進展が阻止される。マウス由来の脂肪前駆細胞を細胞培養用プレートの各ウェル内でコンフルエントになるまで培養後、脂肪細胞への分化を誘導し、その後、分化維持培地中での脂肪細胞の分化について観察した。分化維持培地に培地容量の1%となるように天然資源物質である海洋性腐食土の水抽出液を加えたところ、分化日数とともに脂肪細胞内に蓄積される油滴量はコントロール(蒸留水)に比べて有意に減少していた。一方、分化8日目の培養液中アディポネクチン量はコントロールと比べて有意に増加していた。次に、培養血管内皮細胞に対する海洋性腐食土の影響について検討した。海洋性腐食土の水抽出液の希釈列を作成し、それぞれを培養液容量の1%となるように培養液に加えたが、培養血管内皮細胞の増殖能に有意な変化は認められなかった。一方、細胞外基質の分解を促して細胞の移動や遊走に関わるplasminogen activator (PA) の分泌量をフィブリンエンザイモグラフィーで検討したところ、海洋性腐食土の水抽出液は培養血管内皮細胞の培養液中urokinase-type PA活性を有意に増加させた。また、PAのインヒビターであるPA inhibitor-1(PAI-1) 活性量は有意に減少しており、その結果として、PA活性が増強された可能性も考えられる。ダブルチェンバーの下層で油滴蓄積量の異なる様々な分化段階の脂肪細胞を培養するとともに、同時にダブルチェンバーの上層で血管内皮細胞培養することに成功し、脂肪細胞と血管内皮細胞の相互作用を解析することのできる共培養(二層培養)系を確立することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂肪細胞と血管内皮細胞との相互作用を解析する前にそれぞれの細胞に対する天然資源物質の作用を明らかにしておくことが必要であることから、脂肪細胞または血管内皮細胞それぞれの細胞に対する天然資源物質の影響を解析した。数種類の天然資源物質について、脂肪細胞または血管内皮細胞に対する効果を検討した結果、海洋性腐食土の水抽出液が脂肪細胞の油滴蓄積量を抑えて肥満を抑制するとともに、血管内皮細胞の遊走促進に関与するplasminogen activator (PA) 活性を増強させることを見出すことができた。この結果は、海洋性腐食土の水抽出液が脂肪細胞と血管内皮細胞との相互作用を改善する可能性を示唆するものであり、研究の達成に近づいたと評価することができる。当初の研究計画どおり、脂肪細胞と血管内皮細胞を使用して実験を進めることができ、ダブルチェンバーを用いて脂肪細胞の存在下で血管内皮細胞を培養する共培養(二層培養)の実験系も確立することができたことから、本研究はおおむね順調に進展していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
脂肪細胞における油滴蓄積量の変化や、脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカインの分泌量に影響を及ぼす天然資源物質の探索をさらに推し進める。また、血管内皮細胞が有する生物化学的性質、すなわち抗血栓性や細胞外基質分解酵素の産生・分泌量に影響をおよぼす天然資源物質の探索を継続して進める。そして、脂肪細胞における油滴蓄積を抑制するとともに、血管内皮細胞の抗血栓および遊走能を促進する可能性のある天然資源物資の特定を行う。一方、海洋性腐食土の水抽出液に脂肪細胞と血管内皮細胞との相互作用を改善する可能性が見出されたことから、脂肪細胞と血管内皮細胞の共培養系に海洋性腐食土の水抽出液を添加し、それぞれの細胞における生理活性因子のmRNA発現変化を解析する。ターゲットとする生理活性因子はアディポネクチン、PAI-1および各種線溶系因子などである。脂肪細胞と血管内皮細胞の共培養系を用いて、脂肪細胞が血管内皮細胞の遊走能にどのような影響を及ぼすのかを解析する。ダブルチェンバーの下槽に脂肪細胞、上槽に血管内皮細胞を培養し、上槽と下槽を隔てるフィルターに存在する孔(ポアー)を通してフィルター下面に遊走してきた血管内皮細胞の数からその遊走能を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度(平成24年度)の研究費の申請額は130万円である。本研究を遂行する上で、次年度に新たな設備備品を購入する必要がないことから、研究経費のすべては必要な消耗品の購入に使用する。次年度も細胞培養実験が主になるので、細胞培養用試薬および細胞培養用フラスコや細胞培養プレートなどの細胞培養用器具として40万円を使用する。また、引き続き生理活性因子の抗原量や活性量を測定するために、生化学試薬や一般試薬として40万円を使用する。さらに、次年度は生理活性因子のmRNA発現量を検討する予定であることから、mRNAの精製やリアルタイムPCRを実施するための試薬およびプローブの購入など、遺伝子発現解析費用として50万円を使用する予定である。
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