研究課題/領域番号 |
23590291
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
上嶋 繁 近畿大学, 農学部, 教授 (30193791)
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キーワード | 脂肪細胞 / 血管内皮細胞 / 天然資源物質 / アントシアニン |
研究概要 |
脂肪細胞に多量の油滴が蓄積すると肥満になる。肥満は動脈硬化などの血管障害を引き起こして心筋梗塞や脳梗塞など、生活習慣病の発症と密接に関係している。脂肪細胞の血管への影響は脂肪細胞が分泌する種々の生理活性物質(アディポサイトカイン)に依存しており、アディポサイトカインの分泌量や種類は油滴蓄積量に応じて変化することが知られている。 マウス由来脂肪前駆細胞の3T3-L1細胞を用いて天然資源物質である植物性色素の一種であるアントシアニン(Cyanidin-3-Glucoside Chloride; C3G)と海洋性腐植土水抽出物質の脂肪細胞に対する作用を検討したところ、両天然資源物質は培養脂肪細胞の油滴蓄積量を減少させた。C3Gが脂肪細胞でのアディポネクチン産生を増加させることは既に知られているが、海洋性腐植土の水抽出物質もまた脂肪細胞の油滴蓄積量を減少させるだけでなく、アディポネクチンの分泌量を増加させることを見出した。 一方、C3Gと海洋性腐植土水抽出物質はともに培養血管内皮細胞に作用して培養液中の線溶活性、すなわちプラスミノゲンアクチベーター活性を増強させることをフィブリンエンザイモグラフィーにて確認した。そこで、二層培養の下槽にマウス由来脂肪細胞を存在させ、上槽にマウス由来血管内皮細胞を播種して、上槽と下槽を隔てる膜(フィルター)を通過して膜の下面に遊走してくる培養血管内皮細胞の数から培養血管内皮細胞の遊走能を評価し、遊走能に及ぼすC3Gと海洋性腐植土水抽出物質の影響を検討した。その結果、血管内皮細胞の遊走能は脂肪細胞の存在下で有意に増強し、その遊走能は脂肪細胞の油滴蓄積量に依存していた。しかし、C3Gと海洋性腐植土水抽出物質はいずれも、脂肪細胞存在下における培養血管内皮細胞の遊走能を有意に減弱させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物性色素の一種であるアントシアニン(Cyanidin-3-Glucoside Chloride; C3G)と海洋性腐植土水抽出物質という2種類の天然資源物質についての解析を行った。まず、脂肪細胞の油滴蓄積に対するこれら天然資源物質の効果を明らかにした。また、血管内皮細胞が本来有する細胞増殖能や抗血栓性、すなわち線溶系酵素の産生・分泌能に対する天然資源物質の効果を明らかにした。このように、脂肪細胞と血管内皮細胞を単独で培養した場合のそれぞれの細胞に対する天然資源物質の効果を明らかにしたうえで、脂肪細胞存在下における血管内皮細胞の遊走能を検討することができた。そして、結果としてこれらの天然資源物質が脂肪細胞の共存下における血管内皮細胞の遊走能を減弱させたことから、これらの天然資源物質は肥満を抑制するだけではなく、肥満時に血管内皮細胞の遊走能亢進によって引き起こされる血管障害あるいは血管性病変の発症、進行を抑制する可能性が示された。したがって、本課題研究の本年度の目標はおおむね達成できたと自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
血管内皮細胞の遊走能は脂肪細胞の存在下で有意に増強していた。この増強効果は明らかに脂肪細胞の油滴蓄積量に依存しており、今までに検討した2種類の天然資源物質は脂肪細胞の油滴蓄積量を減少させるとともに、脂肪細胞の共存下における血管内皮細胞の遊走能を減弱させた。 細胞の遊走は細胞を取り囲む細胞外基質の分解と密接な関係がある。なぜなら細胞外基質を分解して生じた空間に細胞が移動して細胞が遊走するからである。そこで、血管内皮細胞の遊走能変化に関わる液性因子を特定するために、脂肪細胞と血管内皮細胞を共培養した後に培養液を採取する。そして、培養液中に含まれる細胞外基質分解酵素(マトリックスメタロプロテアーゼ)をゼラチンザイモグラフィーにて解析するとともに、細胞外基質の分解に関与するプラスミン、プラスミノゲンアクチベーターなどの線溶系酵素をフィブリンザイモグフィーにて解析する。さらに、特定された因子の天然資源物質による質的および量的変化を検討する。また、細胞溶解液を用いて同様の実験を行い、細胞そのものに由来する遊走性因子についても解析を行う。これらの結果をもとに、遊走に関わる因子の遺伝子発現の変化を明らかにする。 細胞培養実験により得られた天然資源物質の効果を生体内で確認する目的で、脂肪食とともにこれらの天然資源物質をマウスやラットなどの実験動物に摂取させる。そして、天然資源物質の摂取による動脈硬化性病変および血管内皮細胞の遊走性に関わる血管性病変の発症・進展程度の変化や血管の内皮細胞が有する抗血栓性の変化について、検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度(平成25年度)の直接研究費の申請額は90万円である。本研究を遂行する上で、次年度に新たな設備備品を購入する必要がないことから、研究経費のすべては必要な消耗品の購入に使用する。次年度も細胞培養実験が主になるので、細胞培養用試薬および細胞培養用フラスコや細胞培養プレートなどの細胞培養用器具として30万円を使用する。また、引き続き生理活性因子の抗原量や活性量の測定および遺伝子発現解析のために、生化学試薬や一般試薬として40万円を使用する。さらに、動物実験用の実験動物を購入するために20万円を使用する予定である。
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