研究課題
糖脂質からなるGPI(Glycosylphosphatidylinositol)アンカーは、ほ乳類の細胞においては130種以上の蛋白質の膜結合に用いられている。GPIが欠損するとこれらの全ての蛋白質が細胞表面に発現できない。現在までに26個の遺伝子が、GPIアンカー型蛋白質の生合成や、修飾に必要であることが我々の研究で明らかになっている。我々は海外との共同研究によりてんかん、精神発達遅滞、高アルカリホスファターゼ(ALP)血症、四肢の奇形などを呈する先天性GPI欠損症PIGM, PIGVを世界に先駆けて報告した。本研究により新たに海外との共同研究によりPIGO欠損症、PGAP2欠損症が見つかり、またてんかん患者のスクリーニングにより国内初のGPI欠損症PIGO欠損症が見つかった。いずれもPIGV欠損症と同様高ALP血症を呈した。高ALP血症の発症機序については以下のように説明される。GPIアンカー型蛋白質であるALPは小胞体で、前駆タンパク質のC末端のGPI付加シグナルがGPIトランスアミダーゼによって切断され完成型のGPIに付加される。高ALP血症は、PIGV あるいはPIGOの活性低下に起因するGPI生合成の低下によりGPIに付加されずにそのまま分泌されることによっておこることがわかった。またPGAP2欠損症については、上記とは異なる機序で高ALP血症を来すと考えられる。PGAP2はゴルジ体においてGPIアンカー型蛋白質の脂質部分のリモデリングに係わるタンパク質で、欠損するとGPIアンカー型蛋白質のsn-2に飽和脂肪酸が付加されずにリゾ体のまま細胞表面に発現するが速やかに細胞表面から放出されることが実験的に証明されている。即ちPGAP2欠損症における高ALP血症は細胞表面からの放出によって起こると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
海外との共同研究によって新たにPIGO、PGAP2欠損症を発見し、機能解析を行った。何れも予想通りてんかん・知能低下・高アルカリホスファターゼ血症を呈しており、それぞれ論文化して報告した。また国内の症例PIGO欠損症が見つかったことにより、詳細な症状や検査所見を解析することができた。この患者は難治性てんかんに苦しんでいたが、診断が確定したことによりビタミンB6が奏功する可能性が予測され、実際に投与したところ発作が消失した。これについては現在再投稿中である。以上は計画していた、先天性GPI欠損症における高アルカリフォスファターゼ血症の発症メカニズムの解明、てんかん発作の発症メカニズムの解明について患者側からの解析においては私たちの仮説を裏付ける結果になっている。
先天性GPI欠損症に共通するてんかん発作の発症機序、さらには精神発達遅滞の発症機序の解明に向けて実験モデルの構築のためにマウスモデルの実験系を確立する。nestin-Creマウスは胎生10.5日より神経細胞特異的に発現しPigafloxed/floxedマウスと交配することにより神経細胞特異的にGPIアンカー型蛋白質を欠損したマウスが得られる(Genesis. 2006, 44:355)。致死になる場合にはタモキシフェン誘導が可能なnestin-Creマウスを使用し発現時期をずらすことにより生仔を得ててんかん発作を観察しニューロンの機能を解析する。
該当なし
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