研究課題/領域番号 |
23590371
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
古川 圭子 中部大学, 生命健康科学部, 教授 (50260732)
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キーワード | スフィンゴ糖脂質 / 糖鎖合成酵素遺伝子 / 癌 / 脂質ラフト / シグナル伝達 |
研究概要 |
H24年度は次の実績が得られた。 1)糖脂質糖鎖の違いによる細胞膜脂質ラフトの構造と機能の異同を1分子観察により解析するために、GD3発現ヒトメラノーマ細胞株SK-MEL-28の亜株でGD3非発現細胞株SK-MEL-28-N1(N1細胞)に種々の糖鎖合成酵素遺伝子を導入して①GD3発現N1(GD3(+)N1)細胞、②GD2発現N1細胞、③GM2発現N1細胞、及び④GM1発現N1細胞を樹立し、これらの細胞を1分子観察による脂質ラフト解析のために連携研究者(京大、鈴木)に提供した。そして、蛍光標識GM1をN1細胞(GM3のみ発現)、GM2発現N1細胞、およびGM1発現N1細胞に添加し、蛍光標識GM1の細胞膜上での動態を検討した。その結果、GM1発現細胞膜上の蛍光標識GM1の会合時間は、N1細胞およびGM2発現細胞上の蛍光標識GM1の会合時間の約1/2となり、細胞膜上でのGM1同士の会合が示唆された。 2)種々の糖鎖合成酵素遺伝子を導入して樹立したGD3発現細胞、GD2発現細胞、GM2発現細胞、及びGM1発現細胞の糖脂質組成について、細胞から酸性糖脂質を抽出してTLCにより分析した。その結果、GD3発現細胞、GD2発現細胞、およびGM2発現細胞の主要な糖脂質は、各々GD3, GD2, GM2であったが、GM1発現細胞では、GM1とGD1aが検出された。 3)これまでに、GD3(+)N1細胞ではGD3(-)N1細胞に比べて、I型コラーゲンに対する接着刺激によりAktのリン酸化が増強することを明らかにしたが、その強度は強くなかった。また、Erkのリン酸化は差異が認められなかった。しかし、HGF刺激と接着刺激を同時に加えることにより、GD3(+)N1細胞では、AktとErkの顕著なリン酸化の増強が認められ、更にアポトーシスの抑制効果の増大および細胞増殖能の亢進が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)1分子観察による脂質ラフトの解析に必要な細胞株、①GD3発現N1細胞、②GD2発現N1細胞、③GM2発現N1細胞、及び④GM1発現N1細胞を樹立し、共同研究者に提供できた。その結果、細胞膜上でのGM1同士の会合を示唆する結果が得られた。(2)①GD3発現N1細胞、②GD2発現N1細胞、③GM2発現N1細胞、及び④GM1発現N1細胞の糖脂質組成を生化学的に分析して、主要な酸性糖脂質を同定した。(3)GD3(+)N1細胞において、接着刺激とHGFによる増殖刺激を同時に加えることによりAktおよびErkのリン酸化が相乗的に増強することを明らかにし、その結果、アポトーシスの抑制効果の増大および細胞増殖能の亢進が認められることを示した。(4)脂質ラフト組成の質量分析(MS)解析のために、LESA(Liquid Extraction Surface Analysis)を利用したTLC-MSによる糖脂質分析法を確立した。(5)GD3(+)N1細胞について、細胞膜のGD3近傍の分子群をEMARS反応により解析した結果、Neogenin, Netrin, Integrin等の分子が同定された。
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今後の研究の推進方策 |
平成23~24年度の研究成果をもとに、 1)糖脂質糖鎖の違いによる細胞膜上での分子動態の異同について、酸性糖脂質GM1に加えて、GM2, GD3およびGD2についても1分子観察により解析する。また、シグナル分子であるインテグリンおよびAkt等の分子動態についても検討する。 2)EMARS反応により同定された分子の中で、Neogenin, Netrin, およびIntegrinとGD3との相互作用について解析する。また、新たに同定されたNeogenin-Netrinの細胞膜直下に存在するシグナル分子群(FAK, SFK等)の活性化に対するGD3の関与について検討する。 3)TLC-MSによる脂質ラフト組成の質量分析(MS)を行い、脂質ラフトの脂質組成を詳細に同定すると共に、脂質ラフト組成の差異によるラフト機能の異同について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度の実験が順調に進行し、消耗品の購入額(消耗品費)および研究補助費(謝金等)などが予定よりも少額で済んだ。従って、H24年度の残金は次年度の研究を遂行するために使用する。特に、EMARS反応により同定された分子群の機能解析、および糖脂質糖鎖の違いによる細胞膜上での分子動態の異同について1分子観察による解析(共同研究)を発展させる目的で、実験補助のために人件費として使用予定である。また、H25年度の研究費は主に物品費として使用するが、研究の進行状況に応じて実験補助のために人件費として支出する可能性がある。
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