研究課題/領域番号 |
23590585
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
齋藤 勇一郎 群馬大学, 医学部, 助教 (30344922)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | RFID / 医療安全 / 業務の定量 |
研究概要 |
群馬大学医学部附属病院循環器内科病棟で、医師・看護師を中心とする複数の病棟スタッフに同意を取得した後、無線タグを取り付け、実験期間中24時間の位置・時刻のデータ収集を行った。利用箇所を固定できない機器類(心電計、車いす、処置用カート等)にも無線タグを取り付けて、同様に実験を行った。アンテナは、病室とナースステーションなど、患者と関わる業務に従事する場所に取り付た。 予備実験を実施した状態では、測定対象病室に一つずつアンテナを設置した。病棟全体での設置箇所を下図に示す。誤差の少ない電波強度を得る設定の結果、各装置が移動する都度、誤差10%未満でその位置を捉えることができた。 病室の訪問回数、訪問時間の合計、平均訪問時間を算出して、病室毎の訪問状況を可視化することができた。特に、準夜帯や深夜帯など看護管理上で捉えにくかった時間帯など部屋別もしくは全部屋の巡回状況なども把握できた。時刻順の看護師所在位置の解析では、特定の病室への看護師の訪問状況を示す図なども作ることが可能であった。機器については各時刻の所在を示しており、利用状況と利用場所を特定することができた。 看護管理者が定性的に捉えていた看護実施状況を図示でき、看護配置や看護必要度を定量的に評価する可能性が開けた。想定される活用方法には、夜間の看護師の巡回密度が低下する時間帯の転倒患者への対応遅れの原因の分別など、様々なものが考えられる。その時間帯のスナップショットにより、他病室で業務中か、巡回間隔不足か、などの絞り込みが可能になる。今後、看護師の業務負荷、医療安全への活用などが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
看護師を中心に業務量を定量する手ごたえが得られ、研究はおおむね予定通りに進行していると考えられる。実験の際に、新たな課題も見つかってきた。 まず、RFIDから得られる情報は、業務内容や目的を含まない。それらの情報の不足により詳しい業務分析ができないことも少なくない。今回の追跡実験は詳細な看護業務分析が目的でないので、付加情報の取得は行わなかった。しかし今後の追跡実験は、付加情報の取得も研究方法の中に含めなければならないと考える。 次に、機器への追跡を行った結果、よく使われる機器、使われない機器の差があることが判明した。実験対象病棟には3台の心電計があり、1台が新しい(使いやすい)機器であり、その機器のみ利用頻度が高く、複数の病室で利用されていた。RFIDによる機器の所在管理は、機器の新旧などの属性を併せて稼働管理して、機器の更新など一歩進んだ管理が可能と考えられる。 以上より、本システムは、個々のスタッフの行動を詳細に把握できる。スタッフのプライバシーの侵害や労働強化などの悪影響も懸念される。今回の実験では業務に活用しないこと、情報取得の合意を得ているなど問題は無かったが、今後は個人情報保護などを参考にして倫理指針を設けて、その指針の下で必要な手続きを行い、適切なプロセスで利用しなければならないと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
UHF帯RFIDは2005年4月から国内で使用が認められたUHF周波数帯(952~954MHz)を使用する無線IDタグシステムである。UHF帯RFIDの特徴は、従来のRFIDに比較してタグの反応距離が長いことである。さらにパッシブ型のタグは電池交換が不要であり、タグ自体に損傷がない限り半永久的に感知が可能である。 実験場所は電波暗室で試験するのではなく、実際の現場を想定し、四方のうち二方を壁面とした鉄筋コンクリート構造の大空間で試験を行う予定である。アンテナ設置位置は部屋や廊下の天井を想定したものであり、電波影響を最小限にするために全て木材で実験環境を構築する。 主な試験項目は、距離と反射の影響、RFタグとアンテナの向きの影響、RFタグを貼り付ける材質の影響、RFタグの重なりの影響であり、いずれも病院内での適用を考えた評価を行う。そこでスペクトラムアナライザによる電波強度の計測、心電計等の各機器を持ち込み、無線タグを使用した際の誤動作発生の有無を調べる。さらに、電波の発射は電磁界を発生させることから、病棟内で使用する医療機器や心臓ペースメーカーへの影響も確認する。
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次年度の研究費の使用計画 |
RFIDの電波強度測定のための機器や解析ソフトウェアなどの物品購入のため70万円を予定している。学会発表のための旅費に20万円、論文化のための費用に10万円を予定している。平成23年度配分額の残金(102735円)は論文校正・掲載のための経費を予定していたが、現在投稿中のため、平成24年度に繰り越しとした。
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