研究課題
本邦で開発された核酸系逆転酵素阻害剤4'-ethynyl-2-fluoro-2'-deoxyadenosine (EFdA)はこれまでにない逆転写酵素阻害機序、translocation阻害を有する。この機序の詳細な解明のために平成23年度からEFdAに対する耐性HIVを試験管内で誘導しそのウイルス学的解析を行っている。本年度はこれまで報告のある多剤耐性変異を同時に有する高度多剤耐性HIVに対するEFdAの効果を検討した。これらのウイルスであってもEFdAが効果を示すことを明らかとした。2次変異として同定されたA158TやT165M/Rのリコンビナント酵素を使用し解析したところ、酵素学的にも活性の低下や速度の低下が認められるが、耐性度に対して大きな影響を示さない点は、ウイルスの場合と一致した。更に、ウイルスの複製能を詳細に調べ、耐性度と複製度の2次元での相関性を解析した。通常は耐性度と複製能は逆相関を示すことが多いが、EFdAの耐性変異の場合、耐性度をあまり獲得できないままに複製能を失う傾向にあり、耐性を獲得するにせよ、ウイルスにとってのコストがかなり大きくなることが予想された。これらのことを総合すると、HIVはEFdAに対して耐性を獲得しにくいだけでなく、獲得してもその代償としてウイルス複製能を大きく損なうことが明らかとなった。つまり、EFdAはこれまでの核酸系逆転写酵素阻害剤と比べ、非常に優れたプロフィールを有していることが明らかとなった。更にこれらの薬剤特性はエチニル誘導体に広く観察され、耐性に対する抵抗性ではdiamino-purin誘導体はEFdAを上回る耐性抵抗性を有していた。また、感染性のウイルス及び生化学的酵素アッセイから同等の結果が得られたことは、この結果が非常に確からしいことを裏づける。
1: 当初の計画以上に進展している
平成24年度は、研究協力者の成果もでており、当初予定されていたよりも研究が進み、前倒し申請をするに至った。またEFdAに関しては、臨床開発権の米国メルク社に24年度(8月)に導出することができた。変異を有する逆転写酵素の精製も順調に進んでおり、これらの解析を現在行っている。やや遅れ気味であったHIV-2における耐性誘導も本年度無事終了し、耐性関連変異も同定しえた。そのため解析が予定よりも進んでおり、全体としては予定通りよりも進行した達成状況にある。
平成25年度HIV-2における耐性ウイルスの解析というウイルス学的実験のほかに、細胞側の実験として、細胞内dNTP量測定と耐性変異を有するRTの作製を進める。細胞からメタノール抽出、DNA polymeraseを用いた測定法にて有効dNTP量を4種類に分けて測定する。ATP測定には市販されているATP測定キットを用いて行う。これらが耐性に及ぼす影響を検討する。耐性変異を有するRTの作製では変異を有するRTタンパクを大腸菌で発現させる。カラムで精製したのちRT反応を行い、反応液中のdNTPおよびATP濃度を変化させ、その活性の変化を検討する。本年度は、残っている実験データの収集・解析を主に行い、一方で論文発表のためのデータをまとめて論文として投稿する予定である。これら以外は申請書作成時の計画どおりである。
上記における試薬の購入(メタノール・カラム・ATP測定キットなど)及び論文投稿用費用に充てる。未使用金額の発生した理由としては、大腸菌で作製するRTタンパクが予想よりも高収量で得られ、培養関連の試薬購入費や生成費が予定よりも掛からなかったため。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件) 学会発表 (8件)
Curr Pharm Des.
巻: 19 ページ: 1827~1834
10.2174/1381612811319100007
Int J Biochem Cell Biol.
巻: 45 ページ: 908~915
10.1016/j.biocel.2013.01.015.
Tohoku J Exp Med.
巻: 229 ページ: 137-142.
org/10.1620/tjem.229.137
Nucleic Acids Research
巻: 40 ページ: 345~359
10.1093/nar/gkr694
Future Med Chem.
巻: 4 ページ: 837~844
10.4155/fmc.12.31
J Biol Chem.
巻: 287 ページ: 29988~29999
10.1074/jbc.M112.351551.
Cell Mol Biol (Noisy-le-grand).
巻: 58 ページ: 187~195
10.1155/2012/586401
Int J Tuberc Lung Dis.
巻: 4 ページ: 532-538
10.5588/ijtld.10.0764.
巻: 228 ページ: 157-161.
doi.org/10.1620/tjem.228.157
巻: 226 ページ: 313-319.
org/10.1620/tjem.226.313