研究課題/領域番号 |
23591307
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
孫 徹 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60572287)
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キーワード | レプチン / 肥満 |
研究概要 |
本研究においては、レプチン抵抗性モデルである高脂肪食負荷レプチントランスジェニックマウス(以下Tgマウス)を用いて、レプチン抵抗性状態における、神経核ごとの異常、細胞内シグナル伝達分子ごとの異常を検出しその病態生理的意義を明らかにしたうえで新規レプチン抵抗性改善薬スクリーニングに活かすことを目的としている。研究初年度においては、レプチンTgマウスがわずか1週間の高脂肪食負荷で、体重が依然としてやせの表現型の状態で、外因性レプチンに対する摂食抑制作用、主要神経核における神経活性化マーカーであるc-fosの発現をアウトプットとしてレプチン抵抗性を呈していることを明らかにしたのに続き、当該年度においてはレプチンの主要な細胞内シグナルであるpSTAT3、pERKについても主要な神経核においては同様な変化が起きていることを確認した。またこの際cfosとpSTAT3で検出した際の結果の違いにより、このモデルでレプチン受容体陽性細胞ではないニューロンでレプチン反応性が低下している神経核を新たに同定した。さらに本モデルの特徴をより詳細に明らかにするために、当該年度においては、既報での代表的なレプチン抵抗性マウスモデルである長期間(8週間及び16週間)の高脂肪食負荷野生型マウス、持続する高レプチン血症と老化の要素を持つ、レプチンTgマウス老化モデルにおいても同様の検討を行なった。本研究のモデルである1週間の高脂肪食負荷レプチンTgマウスは、長期間の高脂肪食負荷マウス、持続する高レプチン血症マウスとは、抵抗性をきたす神経核のパターンが異なっていることを明らかにし、レプチン抵抗性を来す因子により抵抗性の起こり方が違うことを明らかにした。 この際、弓状核はいずれのモデルにおいても障害を受けていたことから、スクリーニング系の構築においては弓状核を対象をすることが最適であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最も重要なポイントであるモデルマウスの妥当性の確認を研究初年度で確認したのに引き続き、当該年度においてはそれをさらに詳細に検討するとともに他のモデルとの比較も行っており、本研究の基盤をより強固に固めたと言える。すなわち、本研究のモデルマウスでやせの表現型にもかかわらずレプチン抵抗性を来たすことが確認できており、肥満の影響なしにレプチン抵抗性を解析するという、スクリーニング系確立のために重要なポイントをクリアしている。さらに、他のモデルとの比較で抵抗性惹起因子ごとに抵抗性が起こるメカニズムが違っていることを示唆する結果を得ているほか、ターゲットとなる神経核について最も重要と考えられる弓状核について確認できているとともに、新たな神経核も同定できており、こちらも十分な進展と考える。またFRETプローブによる検出系については本研究計画申請時にはFRETプローブを恒久的に十分量発現する細胞株の作成は不可能とされていたため、細胞株を使用した研究は計画中に含んでいなかったが、この間の方法論の発展により、恒久的に十分なFRETプローブの発現量を細胞レベル、生体レベルにおいて維持する方法が相次いで報告されたことを受けて、現在恒久的安定発現細胞株の作成に取り組んでいる。これに伴い、申請時には生体レベル、脳スライス標本レベルとしていたレプチン抵抗性の解析を、細胞レベルでも行うことが可能となる。対象の神経細胞株としてはカナダのBelshamらの開発した不死化視床下部神経細胞株であるHypoE-44を入手し、基礎的性格のを検討したがスクリーニング系には適さないと判明したため、現在同様のHypoE-41細胞及びヒトのneuroblastoma由来の細胞株であるSH-SY5Yを用いた実験系の構築に取り組んでいる。以上よりおおむね順調に進展していると考える
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今後の研究の推進方策 |
当該年度までの研究実績により弓状核を含めて標的とすべき神経核を複数確認できた。それらの一部の神経核はこれまでにレプチン系との関連が報告されていない神経核であるため、その神経核の重要性を確認するために、そこを破壊実験などを行ってその表現型を解析する。またレプチン受容体の発現が確認されている部位では、脳定位固定によるマイクロインジェクション法によりshRNAを部位特異的に発現させ、レプチンの細胞内シグナルをノックダウンして行く予定である。計画申請書での当初の予定通り、3つのレプチン細胞内シグナルのうち、レプチン抵抗性状態における意義の解析について報告が非常に少ないERKシグナルについて、そのshRNAを用いたノックダウンをまず行う。また2011年末に高脂肪食負荷時早期におけるPI3K系の意義に関する報告がなされたのを受けて(Cell Metabolism 2011)、早期の高脂肪食負荷のレプチン抵抗性に関する影響を増大して検出できていると考えられる本実験系において、PI3K経路についてもERK経路と並行してshRNAによるノックダウンをおこない、各経路のレプチン抵抗性状態における病態生理的意義を、神経核特異的なレベルで解析して行く。さらに研究計画書で挙げたAMPKシグナルとレプチンシグナルとの相互作用に関しても、中枢においては培養細胞を用いて細胞レベルで解析して行くと同時に、本モデルでのレプチン抵抗性状態における中枢のレプチンシグナルと末梢のAMPKシグナルの関係についてもin vivoのマウスよりのサンプルを用いて解析してく予定である。また細胞レベルでのレプチン抵抗性の機序を明らかにする目的でマウスの不死化視床下部細胞株であるN41細胞、ヒトのneuroblastoma細胞株であるSH-SY5Y細胞を用いて、レプチンシグナル伝達を低下させる刺激を探索していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の予定に加えて、当該年度において、効率よくモデルマウスの解析を行えたことにより、次年度に繰り越し可能となった金額で、さらに大規模にマウスを用いた検討を行う予定である。
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