研究概要 |
本研究においては以下のことを示した。 肝臓でレプチンを正常の約5-10倍に過剰発現するレプチントランスジェニックマウス(Tgマウス)は通常食ではやせの表現型を示すが、わずか1週間の高脂肪食負荷で、体重が肥満の表現型を示していないにもかかわらず、外因性レプチンに対する摂食抑制作用が減弱していた。これに対して1週間の高脂肪食負荷野生型マウス、通常食のレプチンTgマウスでは外因性レプチンに対する摂食抑制作用は保たれており、高レプチン血症と高脂肪食の相互作用でこのような表現型が出現したと考えられた。この時、免疫組織学的検討において、主要神経核における神経活性化マーカーであるレプチン誘導性c-fosの発現, レプチンシグナルの主要経路であるSignal Transducer and Activator of Transcription 3 (STAT3)のリン酸化が減弱しており、このマウスでは肥満がないにもかかわらずレプチン抵抗性を呈していることを明らかにした。さらにこの時レプチンの主要な作用標的である弓状核においてはレプチン抵抗性が生じているが、海馬や延髄の孤束核では抵抗性が生じていないことを明らかにした。海馬はレプチンの抗うつ作用に重要と考えられており、海馬においては16週間の高脂肪食負荷でレプチン抵抗性が生じるとの他の研究者からの既報がある。また、孤束核は末梢からの迷走神経入力の統合点と考えられており、孤束核でのレプチン受容体のノックダウンが肥満の表現型を示すとの他施設の既報などと合わせて考慮すると、レプチン抵抗性の出現には神経核ごとの感受性、あるいは出現のタイムコースに違いがあると考えられた。このような神経核ごとの反応性の違いはレプチン抵抗性の表現型を考えるうえで非常に興味深いと思われた。
|