研究課題/領域番号 |
23591606
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
島村 英理子 金沢医科大学, 医学部, 講師 (00267741)
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研究分担者 |
池田 崇之 金沢医科大学, 医学部, 助教 (00374942)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 胎児 / 胎盤 / 脱核 / 造血幹細胞 / ACTH |
研究概要 |
我々はこれまでにラット14-15 days post coitum (dpc)に特異的に母胎間シグナルleukemia inhibitory factor (LIF)-adrenocorticotropic hormone (ACTH)- LIFがあることを見いだし、このシグナル伝達により胎児大脳皮質神経細胞の細胞分裂が誘導されることを報告してきた。本申請課題では、このLIF-ACTHシグナルによる胎児造血制御の解析を行うため、まず初めにマウス胎児血清中のACTH濃度の発生ステージに伴う変化を計測した。マウス胎児では11.5-12.5 dpcで高い値を示し、13.5-15.5 dpcにかけて濃度が低下した。さらに12.5 dpc母獣にLIFを投与し5分おきに胎児の血清ACTH濃度の変化を測定したところ、10~30分後にかけて増加し続けた。このことから、ラット同様にマウスでは母体間LIF-ACTHシグナル伝達が12.5 dpcに存在する事が示唆された。次に、胎児末梢循環中の生理的な脱核率をみるため、胎児1個体ごとの血球をSYTO16(核染色)とTER119(成熟赤血球マーカー)で二重染色しフローサイトメーターで計測した(脱核率:TER119陽性SYTO16陰性/ TER119陽性SYTO16陽性)。ACTHの高濃度ステージの翌日である13.5 dpcより脱核が誘導され、脱核率は15.5 dpcでほぼ90%に達した。また、我々は13.5-14.5 dpcでは脱核率の個体差が大きいが、頭殿長(CRL)との間に高い相関性があることを見いだし今後の実験においてはCRLでnormalizeすることとした。次に母獣LIF投与により胎児脱核率の上昇が見られるかについて検討を行い、CRL値の同じものでの比較で有意に上昇することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画にあるように、胎児の生理的なACTHの濃度や1個体毎のCRLと脱核率もほぼ計測を終えた。さらに、最も重要な結果の1つである、母獣へのLIF投与により胎児脱核率が上昇することを明らかにした。現在、胎盤Pomcのノックダウンにて脱核率が低下することを検証中である。またin vitro解析に用いるセルカルチャーインサートを用いた胎盤絨毛モデルを作製するため、はじめにtrophoblast stem cellの分化誘導を分化マーカーで検証した。分化に伴い形態はgiant cellおよびsyncytiotrophoblast様となること、また分化が進むほどにPomcの発現量が上昇する事をリアルタイムPCRで確認した。これらのことから、TS細胞から分化誘導した細胞が母胎間シグナルの胎盤絨毛モデルとして有用である事が示唆された。次にこの分化した細胞をセルカルチャーインサートに培養したものを用いたところ、LIF 投与によりACTHを分泌し、かつ極性をもったモデル系を確立することが可能となった。また、申請当時は脱核誘導および赤芽球の分化誘導におけるメラノコルチンレセプター(ACTHの受容体)の機能については未解析の部分が多かったが、研究代表者らはヒト造血幹細胞を用いた培養実験を平行して行っており、MCRの分化に伴う発現パターンや分化誘導の調節機構について解析をすすめている。ヒト培養系ではシグナル伝達系の調節機構がわかってきており、これらの結果により詳細なMCRによる調節機構が明らかになりつつある。一方、申請時にはin uteroによるPomc shRNAレンチウイルスベクターの胎盤へのインジェクションによるノックダウン実験系を計画しているが、現在胚盤胞培養によるレンチウイルスの感染法も視野にいれて検討しており、より精度の高い方法を現在検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度は主にバックグラウンドとなる生理的な胎児のデータの計測と、実験系の構築などに主力をおいてきた。平成24年度はこれを土台に、本研究の主軸となる実験的な部分に重きを置くとともに、申請時には得られていなかったヒト赤芽球のメラノコルチンレセプターによる分化調節機構の結果からさらに詳細な解析を試みる。具体的には(1)胎盤PomcのノックダウンをレンチウイルスベクターのIn uteroインジェクション、もしくはblastocyst感染培養後の胚移植法を試みる。この実験系では、胎盤のPomc発現レベルの確認および胎児血清中のACTH濃度の測定によりそのノックダウン効率を確認する必要がある。ノックダウン効率のよいshRNAを用いて、LIF母獣腹腔内投与後の胎児血清中ACTH濃度の推移を測定、さらに脱核率の確認および赤芽球のどのステージで分化抑制がかかっているかをギムザ染色により確認する。(2)メラノコルチンレセプターの中和抗体を胎児にIn uteroインジェクションし、その後の分化抑制ステージの確認と脱核率に与える影響、さらにその後のステージでは胎児発生への影響を形態学的に観察する。また、ヒト赤芽球でみられるMCRの下流で活性化されるシグナル伝達経路についても検証する。(3)In vitro解析として、マウス絨毛幹細胞TS細胞を分化させた細胞によるセルカルチャーインサートをもちいた胎盤絨毛モデル実験系を用いて、より詳細な解析を行う。LIF投与後にACTHがある一定方向に極性をもって分泌される事から、このACTH分泌される層において胎児血球を初代培養する。その後の脱核率や赤芽球の分化ステージを経時的に解析する。またこのときに、TS細胞との関係についても(接触、浮遊)観察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は備品の購入は無く、全額が消耗品と薬品代、実験動物費用にあてられる。実験動物はin vivoインジェクション、胚移植実験用の採卵用動物および偽妊娠マウスの準備等が中心となる為、妊娠動物の予算に計上している。レンチウイルス関連試薬としては、in utero もしくはblastocystの胚移植を行うため、レンチウイルスベクターコンストラクト作製、に関わる試薬にあてられる。また抗体代としては、メラノコルチンレセプター中和抗体を胎児腹腔にin uteroインジェクションする実験や、フローサイトメトリー試薬(TER119やCD71、PE標識二次抗体など)の購入を予定している。薬品類としては、ELISA用のACTHやLIFの抗体と試薬類、qRT-PCR用のTaqManプローブや反応試薬、96穴プレート類などが主に含まれる。その他、培養用器具としては通常の消耗品に加えて、セルカルチャーインサートやガラスベースディッシュなどを使用予定である。また、胚移植においては専用の培地などが必要となる為、培養用器具の予算にはblastocyst培養用の消耗品も含まれる。 旅費としては、成果発表および情報収集のため学会発表の出張にあてられる予定である。
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