研究課題/領域番号 |
23592672
|
研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
高橋 尚彦 大分大学, 医学部, 准教授 (30263239)
|
研究分担者 |
手嶋 泰之 大分大学, 医学部, 助教 (10457608)
萩原 聡 大分大学, 医学部, 講師 (50527661)
犀川 哲典 大分大学, 医学部, 教授 (60145365)
野口 隆之 大分大学, 医学部, 教授 (90156183)
|
キーワード | 酸化ストレス |
研究概要 |
【背景および目的】慢性腎臓病(CKD)は心房細動を合併しやすい病態であるが,これまで適切な動物モデルがなかったため,その病態は明らかでなかった。今回,5/6腎臓摘出術(5/6Nx)を施行したCKDラットを用い,“慢性腎臓病CKDモデルラットにおいて,心房の線維化および心房細動受攻性が惹起される”という仮説を立て検証した。さらに酸化ストレスの関与を検討するため,新規抗酸化剤(DHLHZn)の効果を検討した。【方法】8週齢の雄性ラットに5/6NxまたはShamオペを行い,Sham+VEH群,Sham+DHL群,5/6Nx+VEH群,5/6Nx+DHL群に分けた。DHLまたはVEH(vehicle)は,皮下に植込んだ浸透圧ミニポンプから持続皮下注した。【結果】1)5/6Nxによって腎機能障害が生じ,血圧上昇と耐糖能障害も認められた。2)5/6Nxを行った左房では,α-smooth muscle action,コラーゲンType I,NADPHオキシダーゼ構成蛋白の発現亢進が認められ,これらはDHL投与によって回復した。3)5/6Nxを行った左房では,組織アンジオテンシンII含量が増加し,HL投与によって回復した。4)5/6Nxを行った左房では,間質の線維化が惹起されたが,DHL投与によって回復した。5)ランゲンドルフ装置を用いた摘出心灌流実験で,5/6Nxは心房間伝導速度の低下と心房細動誘発率亢進をもたらしたが,これらはDHL投与によって抑制された。【結語】我々は,CKDに合併した心房細動モデルの確立に成功した。抗酸化作用を有するDHLHZnが有効であったことから,このモデルでは,酸化ストレスが左房線維化および心房細動受攻性亢進関与していると考えられた(Fukunaga, Takahashi, et al. Heart Rhythm 12: 2023-31, 2012)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回の科研費を使用させていただき,平成23年度に以下の3編の英語論文を発表できた。 Taniguchi Y, Takahashi N, et al. Cardiovascular Research 92: 439-448, 2011. Thuc LC, Teshima Y, Takahashi N, et al. British Journal of Pharmacology 166: 1745-1755, 2012. Nishio S, Teshima Y, Takahashi N, et al.Journal of Molecular and Cellular Cardiology 52: 1103-1111, 2012. 平成24年度には,「研究実績の概要」に示した論文内容のほか,「アンジオテンシンIIによる心房線維化および心房細動の病態におけるレプチンシグナリングの役割」を発表した。この実験では,遺伝的にレプチンを欠損したObマウスを用い,ObマウスにアンジオテンシンIIを持続皮下注しても,左房の線維化が生じず,心房細動も誘発されないことを報告した。以上のように,成果はインパクトファクターの高い国際誌に受理掲載されており,当初の目標を達成できている。
|
今後の研究の推進方策 |
研究1-腹部大動脈による圧負荷(高血圧)ラットにおいて,左房の内皮細胞にmonocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)が発現し,左房の線維化を促進している病態を検討中である。走査電子顕微鏡を用い,圧負荷によって,左房内皮の肥大,錯綜配列,ギャップ形成,および単球系細胞の浸潤を捉える実験を推進する。 研究2-慢性腎臓病ラットにおける左房線維化および心房細動受攻性亢進に,ウレミックトキシン,特にインドキシル硫酸が悪玉的役割を果たしていることを検討中である。インドキシル硫酸除去剤の有効性を示すべく実験を推進する。 研究3-高脂肪食を与えた際の心房線維化および心房細動受攻性亢進に,脾機能,特に脾臓で産生される善玉サイトカインであるインターロイキン10(IL-10)が関与していることを検討中である。脾臓摘出がIL-10ノックアウトマウスと類似した病態を呈し,IL-10の補充が有効であることを示す実験を推進する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
消耗品として,実験動物(SDラット,IL10-KOマウス),試薬(IL-10,ウレミックトキシン除去剤,ウエスタンブロット,PCR,免疫蛍光組織染色,マッソントリクローム染色等に使用する基本的試薬),心筋細胞や線維芽細胞の培養実験に使用する培養液購入に研究費を使用予定である。上記研究1~3の成果を,国際学会(米国心臓協会学会:AHA)や国内学会(日本循環器学会等)で発表するための旅費,論文別刷り費,等にも使用予定である。
|