研究課題/領域番号 |
23592679
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
上田 健太郎 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (20438279)
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研究分担者 |
中 敏夫 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (00244757)
木田 真紀 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (00326381)
米満 尚史 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (80382331)
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キーワード | HVJ Envelope vector / PAI-1 siRNA / SOCS1 / 術後腸管癒着 |
研究概要 |
救命救急センターにおける腹部緊急手術は外傷・急性腹症がほとんどで腹腔内は強い炎症があり、手術で救命できた場合も高頻度に術後腸管癒着が発生し、臨床的に大きな問題となっている。しかしながら、腸管癒着に対する予防法、予防薬は未だ確立されていない。近年、癒着形成に関する免疫学的要因が提唱され、その分子生物学的メカニズムが解析されてきた。今回、我々は癒着形成メカニズムの重要因子であるPAI-1とSTAT1の発現を抑制するPAI-1 siRNA vectorとSOCS1 expression vector(特異的にSTAT1を抑制する)を作製しこれらを用いて、マウス腸管癒着モデルで予防効果と安全性を詳細に検討する。 PAI-1 siRNA HVJ Envelope vectorの作製:PAI-1に対するsiRNA配列を様々な情報源から10種類以上ののsiPAI-1を合成し、そのノックダウン率の検定するためsiRNA発現ベクターをDC-nanoparticleに包埋してからマウス正常腸管細胞株にtransfectionしリアルタイムPCR法並びにWestern blot法で行ったがどうしても十分なPAI-1発現抑制が得られなかった。そこで予備実験の段階ではあるがHVJ Envelope vector Kit (GenomONE-Neo: 石原産業株式会社)を用いて、このsiRNAをtransfectionを行った結果、約40-60%の発現抑制効果を認めるsiRNA配列を同定できた。 このPAI-1 siRNA HVJ Envelope vectorを、昨年度に完成しているSOCS1 expression HVJ Envelope vectorと併用して、平成25年度の動物実験に使用する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
PAI-1 siRNA HVJ Envelope vectorの作製が予定より約1年遅れたことがまず理由に挙げられる。 腸管癒着予防効果の動物実験は、マウス盲腸をバイポーラ凝固鉗子で1秒間焼灼することで1週間後に強度の腸管癒着を形成するマウスモデル(Nat Med, 14: 437, 2008)を用いる。現在、安定してscore 5の強度な癒着が形成される技術を習得する様トレーニングを重ねるているが、まだ安定したモデル作成ができていないのが現状で有り、動物実験による評価までまだ時間を要する見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
安定した術後腸管癒着マウスモデルが作成可能となった後、SOCS1 expression HVJ Envelope vector・PAI-1 siRNA HVJ Envelope vectorを用いた癒着予防効果の検討を行う。BALB/cマウスを用いて術後腸管癒着形成モデルを作製する。A: Control群、B: SOCS1群、C: PAI-1 siRNA群、D: SOCS1+PAI-1 siRNA群、F: HGF (positive control)群の5群を設定し、閉腹時にA群はPBS i.p.、B群はSOCS1expression HVJ Envelop vector i.p.、C群はPAI-1 siRNA HVJ Envelope vector i.p.、D群はSOCS1expression HVJ Envelop vector + PAI-1 siRNA HVJ Envelope vector i.p.、F群はHGFタンパク質i.s.を施行する。その後、独立した実験系で経時的に、以下の項目を検討する。 1)癒着の程度と組織像の検討:屠殺後、腹腔内を観察し癒着の程度をscore化する。その後、焼灼部位を中心とした癒着腸管を取り出し、病理切片を作成しHE染色、シリウスレッド染色で病理学的に癒着の強度を評価する。 2)相対的mRNAレベルと発現蛋白レベルの検討:取り出した腸管からAI-1, STAT1, SOCS1, IFN-γのmRNAをリアルタイムPCR法で相対的mRNA発現量を測定する。また、それぞれの発現タンパク量を免疫組織染色で評価する。 3)Vector投与による全身状態への影響の検討:マウス尾静脈から採血し、骨髄機能や肝腎機能における副作用のレベルを各群間で検討する。また、血漿のPAI-1とtPAも測定し、評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度となり、in vivo実験での研究費使用がほとんどとなる。しかしながら、動物実験で結果の出ない可能性も当然ながらあり、その場合は再びin vitro実験に研究費を必要となる。また、現時点で安定した動物モデルが確立されていないため、動物モデルの変更も念頭に置いて実験を進めていく予定である。
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