研究課題/領域番号 |
23650395
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
寒川 恒夫 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 教授 (70179373)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 身体論 / 伝統武術 / エスノサイエンス / 台湾 / 韓国 / 中国 / タイ / インドネシア |
研究概要 |
全3年度計画の初年度に当る本年度は、日本と台湾を対象として、伝統武術を支えるエスノサイエンス身体論関連資料の収集と分析がおこなわれた。台湾については国立台湾師範大學を中心に調査活動を実施し、武術実践者への聞き取り調査もおこなわれた。日本については、江戸時代に著述された武術伝書が手掛かりとされた。武術達成の為に、すなわち敵を殺傷捕縛するために技術を最高度に磨き、これを誤り無く現実のものとするためにいかに心身を構想するかが語られるからである。そこでは、技術の確かさが第一に要請されるものの、同時に現に命をやり取りする千変するその実戦場面での確実性をいかに担保するかが問われ、この問題を心の問題に還元して解決する手法がとられた。しかも、この心は、「心法」として仏教とりわけ禅の修行体系に翻訳されて理解されたところに特徴が認められる。興味深いのは、江戸時代の武術の諸流派に共通する「心法」が認められることである。剣術、柔術、弓術、槍術、馬術、相撲、水練など、その具体の身体技法は異なるものの、ひとつの「心法」を共有する傾向のあることを武術伝書の分析は示唆するのである。それは禅僧沢庵が徳川将軍家の剣術師範柳生宗矩に与えた『不動智神妙録』に教示された「不動智」なる心法であった。この不動智心法の武術諸流派への伝播・影響状況が考察された。日本の伝統武術を支えるエスノサイエンス身体論である不動智心法は仏教から導き出されたものであり、それゆえこの身体論はアジアの同じ仏教圏においても展開されている可能性が予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、日本、台湾、中国を対象に伝統武術のエスノサイエンス身体論研究を展開する計画を提示していた。しかし、実際には中国を取り上げることができなかった。これは、日本について収集された資料が当初想定を大きく超える量となり、その分析に当初予定を上回る時間を要したことが原因している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果は日本の伝統諸武術に共通するひとつのエスノサイエンス身体論を抽出し得たことであった。これは今後二ヵ年の計画を展開する上で確かな出発点となり得るものである。対象とするアジアの諸国は日本と同じ仏教文化を色濃く有するからである。本年度抽出されたエスノサイエンス武術身体論の日本型を比較の基準にして、中国、韓国、タイ、インド、インドネシアについて、通文化的比較が可能となるよう資料収集・分析研究をおこなってゆく。
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次年度の研究費の使用計画 |
配分額(交付申請書記載)の旅費70万円と通訳等謝金10万円は、中国、韓国、タイ、インドネシアにおける調査研究活動にあてられる。
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