アジアの武術を支えるエスノサイエンス身体論にあっては、身体は宇宙と有機的に連関した謂わば小宇宙と観念される。この身体論は、畢竟するところ、メソポタミアの古代文明に発して世界に伝播した大宇宙と小宇宙の対応観念に出自を遡り、アジア武術の身体論に共通するが、東アジアの漢字文化圏において得意な発達を見た。「事理一体」「道器一貫」と表現される宗教文化の中で、宇宙を秩序づける形而上的な理や道に通じる心が、形而下の事や器である技を統制すると教えるのである。ここから、武術の技をみごと発現させる殺しの心を、皮肉にも、仏教の不動智や道教の和、つまり悟りの心に求める日本の特異な武術身体論が生まれる。
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