研究課題/領域番号 |
23652045
|
研究機関 | 京都嵯峨芸術大学 |
研究代表者 |
仲 政明 京都嵯峨芸術大学, 芸術学部, 准教授 (50411327)
|
研究分担者 |
箱崎 睦昌 京都嵯峨芸術大学, 芸術学部, 教授 (90351379)
山本 記子 京都嵯峨芸術大学, 芸術学部, 講師 (80392554)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 宋代絵画 / 絵絹 / 秋塘図 / 大和文華館 / 絵画表現 / 蚕 / 繭 / マイクロスコープ |
研究概要 |
本研究は中国宋代絵画の絵絹の製法を解明し「絵画表現」と基底材である「絵絹」との相関関係を実証的に検証することを目的としており、計画として《(1)宋代実作品のマイクロスコープによる観察と分析。》《(2)分析結果の中から【秋塘図】の絵絹を対象として古代絵絹の製法を考察し復元する。》《(3)復原した絹を使用して、模写制作を行い「絵絹の質」を明らかにする。》である。今年度は上記(1)・(2)を行った。(1)は奈良大和文華館所蔵作品の【竹燕図】【蜀葵遊猫図】【萱草遊狗図】【秋塘図】【雪中帰牧図両幅】の6点についてキーエンスマイクロスコープVHX-1000を使用して300倍、500倍を基本として、特に必要な箇所については1000倍の拡大率で観察記録した。その結果【秋塘図】は他作品と比較して織られている生糸の太さが細く経糸は約14デニール(denier,以後記号:D)、経糸が約20Dであり、経糸は1cm間に経糸が約80本程度、横糸は60本程度の織り密度があることが判った。これは、染織品の平絹中でも高品位の部類に入り、現在の機械織り絵絹と比較しても、かなり高い織り密度であり繊細な絹である。 これらの結果を基に検討した結果、蚕品種は新芽の桑葉を与え養蚕した三眠蚕品種を使用。また、熱風乾燥による乾繭ではなく、塩漬け方により蛹を処置する方法をとる。繰糸は手繰り繰糸を行い、取りあえずは試作として、経糸17D緯糸22Dで織り密度経糸80本緯糸60本で第一回目を織ることとした。完成後、その平絹に打練りを一回、二回、三回と三種の練りを行ったものと、練りを行わない物の合計4種を製作した。製織は山梨県勝山織物株式会社絹織物研究所に制作を委託し3月末に完成した。 本年度の研究において、一定の数値データ収集と記録、また研究対象作品の【秋塘図】が他作品の絹と比較して密度の高い繊細な絹であることが判明したことの意義は大きい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度、予定していた「(1)宋代絵画の実作品の調査」「(2)宋代絵絹の復元」「(3)収集データのデータベース化」の内、(1)及び(2)の一部が遂行出来た。しかし計画では、「(2)宋代絵絹の復元」を春産期と秋産期の養蚕をしたもの2種を製作する予定であったが、震災のため、挑戦的萌芽研究の採択が遅れたこともあり、調査日程の調整が遅れ、春産期の蚕を用いての製作が行えなかった。また、秋産期の蚕を用いての製作も、実作品の調査の結果、予想以上に生糸が細かったことから、織り手の事情も鑑み、調査データよりも若干太めの生糸を用いて製作をすることとした。そのため、今年度製作した絵絹はあくまでも参考試料及びデータとして取り扱い、これらのデータを十分に精査して、次年度の絵絹復元に役立てたい。また、(3)のデータベース化も最終年度に行いたいと考えている。 絵絹復元のための基本的データとなる実作品調査では、重要性を持つデータが収集できたことは一定の評価が出来ると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は平成24年度が最終年度となる。平成23年度製作した復元絵絹を打練りをしたもの3種及び未加工1種、合計4種の復元宋代絵絹を使用して墨や絵具の定着・発色及び描画の滑らかさ・滲みなどの検証及びデータ収集を行う。検証方法は各種の復元絵絹をマイクロスコープで観察した後、湯引き加工をした物、未加工、礬水、及び糊を塗布した4種の下地加工をしたものを作成し、仲、箱崎、山本3名で検証を行う。この結果を基に、再度春産期の蚕を使用して宋代絵絹の復元の完成を目指す。計画の遅れが取り戻せない場合は、最終検証は【秋塘図】の部分模模写に変更して、現代絵絹との比較で「絵画表現」と「絵絹の質」との相関関係を明らかにする。また、その過程を詳細に記録すると共に宋代絵画表現技法の解明に努めたい。尚、今年度遂行出来なかった、収集データのデータベース化も出来る限り行いたいと考えている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度が最終年度となり、約142万円の研究費となる。今年度繰越金が約92万円あるが、実作品の調査のためにキーエンスマイクロスコープVHX-1000の中古品を購入する予定であったが、研究費の減額及び最新機種であったことから、市場に中古品が出回っておらず、購入出来なかった。その為、キーエンスからのレンタルに変更したことにより、差額が残金となった。しかし一度のレンタル料が予想以上に高額であったため、今年度実作品調査は一度のみに終わった。また研究遂行の遅れにより、二度行う復元が一度しか行えていないこと、また実作品調査時の収集データ整理が行えていないこと、それらに伴う打合せのための交通費、検証の為の材料費、データベース化の為の人件費等を次年度に繰り越したためである。次年度は絵絹復元製作費50万円。復元絹のマイクロスコープによる観察及び分析30万円。検証の為の材料費10万円。打合せ及び会議に伴う交通旅費25万。データベース化の為の簡易ソフト及びデータ作成人件費27万を使用予定である。
|