平成24年度において、3度の製織を行い1度目の製織においては、絹糸の太さが太く仕上がり、絹の厚みについても厚く仕上がったことから、2度目の製織をおこなったが、絹糸を細くすることで、切れやすくなり、製織に時間がかかった上に、平滑に仕上がらなかったため、3度目の製織を行った。最終年度である今年度は、最終完成した絵絹についての検証を行ったが、予算の都合上、マイクロスコープの観察を諦め、実態顕微鏡による観察を行った。これらの確認において、若干太めではあるが比較的宋代絵画の絵絹と近い形に仕上がったと判断した。 制作時間や技術的な事も判断し、模写試作を【秋塘図】から【蜀葵遊猫図】【萱草遊狗図】に変更して、現在市販されている絵絹(以後市販絹)と本研究絹を用いて模写を行った。2種の絵絹には、下地処置として最も状態の良かった礬水を施して描いた。その結果明らかに絵具の載りと発色に差異がでた。市販絹においては、数回重ねなければ絵具の発色を得られないが、研究絹においては、1度目の絵具の塗布時点で、良好な発色を得ることができ、調子においても研究絹の方が繊細に表現することができた。また市販絹では、墨が絹目にとられ平滑な線が引けなくなるのに対し、研究絹においては平滑な線を引くことができた。これらのことから判断して、宋代の絵絹は、現代の絵絹と比べると明らかに上質であり、このことが、宋代絵画の繊細さ及び緻密な表現を可能としており、宋代絵画の芸術表現が生み出された背景には、「絵絹の質」の差異による影響がある事を明らかにした。裏彩色の効果については、宋代絹は緻密におられているため、市販絹ほど効果を得ることができなかった。このことは宋代絵画が裏彩色が施さないで描かれているのは、絵絹の質によるものである事を実証できたと考える。
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