研究課題/領域番号 |
23653051
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
中村 豊 筑波大学, システム情報系, 教授 (80180412)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 効用理論 / 期待効用 / 主観的期待効用 / 非線形期待効用 / 半順序構造 / 単項関係 / 線形不等式系 / 2次不等式系 |
研究概要 |
近代効用理論には3つの類型化(確実性下、リスク下および不確実性下の意思決定)された意思決定問題のそれぞれにおいて定式化された公理体系がある。本研究の目的はそれらの公理体系を統一的に研究できる枠組みを提案し、それぞれの類型化における効用モデルとそれらの一般化モデルを導出できる統一的な公理体系を構築することである。平成23年度は代替案の集合が高々加算である場合に焦点を絞って研究を進めてきた。また、研究対象としての代替案の構造は特殊なものから初めて、より一般の構造をもつものに拡張するという方法で研究を行った。 まず、特殊な代替案の例として有限次元ベクトルの集合を考える場合の線形不等式系の解を与える必要十分条件を研究した。その結果として、このような特殊な場合には、代替案の数が任意である時にも必要十分条件が得られることが明らかになった。それらの結果をMonotonic additive utility という題目でまとめた論文の執筆はほぼ完成している。次に、一般の代替案の場合、すなわち、任意の非空な集合 X 上の実数値関数で、その値がゼロとならない X の要素の数が有限であるものの部分集合 Aにより代替案の集合が与えられるものを考える。このとき、A が可算集合の場合に、A 上に定義された単項関係や推移的二項関係の定量的表現である線形表現が存在するための必要十分条件を研究した。その結果、推移的二項関係に係る必要十分条件は単項関係のそれからの読み替えにより得られることが明確になった。それらの結果により3つの類型化によるさまざまな公理体系がどのように読み替えることにより導かれるかについて整理を行った。以上の結果を、現在、Additive measurement on countable sets という題目で論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
論文執筆に時間がかかっている。特に、Additive measurement on countable sets では、3つの類型化における様々な公理系が自然に導かれることを示すために、それぞれの類型化における記述をわかりやすく統一的に表現する必要があることと、そのパートがサーベイ的な内容になるため、当初の予定よりは記述内容が大きく膨らんだことが理由である。この論文をうまくまとめて、わかりやすく書くことができると、次年度以降における研究結果をまとめる際に非常に役に立つことから、慎重に論文内容を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、代替案の集合 A 上の線形不等式系の解の存在条件について研究していくが、特に A が非可算集合の場合に重点を置く。このためには、連続性や稠密性の条件をアルキメデス的キャンセレーション条件に付加する必要がある。ここで、どのように連続性や稠密性を定義すればいいかが重要なステップになる。現在のところ、代替案の集合 A に単調性の条件を入れることにより、連続性や稠密性の定義がうまくいく感触を得ている。また、A 上の二次不等式系の解の存在条件について、A が有限集合の場合の研究を開始する。具体的な研究推進方策は以下のようにまとめられる。(1) 代替案の集合が非可算の場合について、単項関係および推移的二項関係の線形表現が存在するための必要十分条件について研究する。一般的な条件のもとでの必要十分条件は見つからない可能性もあることから、A に新たな単調関係を導入し、それによる、連続性や稠密性などの性質を定義することにより研究を進める。このような単調性は実際の応用場面で制限になることはないと考える。(2) 前年度と同じく上記 (1) の結果を推移的二項関係(弱順序、半順序)に適用することにより、様々な効用モデルを導出することができ、これらの統一的な公理体系を明らかにする。(3) A 上の二次不等式系の解の存在は、主観的期待効用モデルにおける効用と主観確率の同時決定、リスク下のランク依存型期待効用モデルにおける効用と客観確率の歪みの同時決定、条件付確率における事象の確率と条件事象の確率の比の決定など、線形不等式系の解の存在では表現できないモデルの公理体系を与える。キャンセレーションは必要条件なので、十分性を示すためには新たな条件を探求する必要がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
統一的公理体系を目指すことから、サーベイ的な文献整理は欠かせないため、物品費として研究資料の収集に35万円を予定している。ただし、平成23年度において、研究資料が予想より若干安く購入できたため、次年度の研究資料費として合わせて使用したい。また、研究資料の内容整理のまとめのための研究補助として大学院生への報酬を5万円、大阪大学・京都大学への研究交流のための旅費を10万円の計上を計画している。
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