研究課題/領域番号 |
23653307
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研究機関 | 植草学園大学 |
研究代表者 |
高木 夏奈子 植草学園大学, 発達教育学部, 准教授 (50531620)
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キーワード | 小学校音楽科 / 言語活動の充実 / 音楽的思考 |
研究概要 |
(1)千葉県公立A小学校の児童の音楽鑑賞文の分析を行い、日本音楽教育学会で発表を行った。内容は次の通りである。 「音楽をきいて、気がついたことや感じたことをできるだけたくさん書いてみましょう。」という指示のもとに、学年の異なる児童が同じ曲を聴き記述した「音楽鑑賞カード」から児童の「音楽の語り方」の分析を企図した。音楽科の指導要領では「根拠をあげて批評する」ことがめざされており、そのためには根拠にあたる「気がついたこと」と、それをどう評価するかという「感じたこと」の両方を記述することが求められる。分析例では、粗く言って半数程度の児童が両方を記述することができていた。しかし、児童の記述文は、当然ながら授業者の発問・指示によってかなりな程度まで規定される。発問・指示が変われば記述文の傾向はかなり変化することが予測される。 小学生は言語能力が発達途上であり、その思考を他者に伝わるように十分に記述することは困難である。そうであるからこそ、授業でそのような体験を積む必然性がある。しかし、児童の音楽的思考を深めるためには、鑑賞後の児童の記述文の完成度を高めようとするのではなく、児童の記述文は児童の思考の状態を推測する素材として扱い、授業中の児童の思考に働きかける授業者の発問・指示こそを分析する必要がある。特に、児童にとってはモデルとして機能する、授業者の「音楽の語り方」の分析の必要性が確認された。 (2)今年度も事例の蓄積を図った。東京都公立B小学校での3年生を対象としたミニコンサートを参観し、児童の鑑賞文の提供を受けた。学生アルバイトの協力を得て、データ化し、分析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)研究計画書に記載した研究協力者が前年度末で退職したが、阪井恵氏(明星大学)の協力を得て、東京都内公立B小学校の授業を参観し、年度末のミニコンサートおよび全校音楽鑑賞会の鑑賞文を入手することができた。ミニコンサートの鑑賞文では、児童が尺八の音をどのように記述しているかの分析を行う予定である。 (2)蓄積した音楽鑑賞文を分析すると、中学年までは紋切り型の記述が多く、児童の思考の実態を推測するのが困難な例が多かった。記述文からは、児童が楽曲・演奏のどこに注目し、どう感じたのかを読み取り、そのような思考を導いた授業者の発問・指示と、児童のモデルとして機能する授業者の「音楽の語り方」に研究の重点を置き、指導案や授業で使用するシート等を作成予定である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)現在までに蓄積した児童の記述文の分析をさらに進め、児童の音楽的思考に対する考察を深める。 (2)児童の音楽的思考に影響を与えている、授業者の発する言葉の分析を行う。 (3)美術教育における「対話型鑑賞教育」に注目している。宮下俊也氏(奈良教育大)による音楽科における「対話型」鑑賞の指導事例もあるが、高等学校芸術科音楽の表現クラスと音楽部の高校生を対象としている。小学校における「対話型」音楽鑑賞の可能性を探る。 (4)音楽的思考が深める言語活動を含む指導案や学習シート例を作成する。 (5)研究成果を発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)物品費…先行研究等のフォローアップのための文献および学校現場の「今」を考察するための図書類の購入。研究の円滑な遂行のために必要な諸物品(トナー、紙類等)の購入。 (2)旅費…授業等を参観し、また、学会・研究会等に参加する。学会は、日本音楽教育学会で発表を行い、日本学校音楽教育実践学会等への参加を予定している。その他、音楽授業ラボラトリー(事務局・筑波大附属小)等への研究会にも参加予定である。 (3)人件費・謝金等…研究の効率を高めるための学生アルバイト(資料整理等)、研究論文を投稿する際の英文要旨の翻訳料など。 (4)その他…研究成果発表のための費用、印刷・複写費等。
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