1.最終年度に実施した研究の成果 (1)研究協力者及び阪井恵氏(明星大学)から提供された児童の音楽鑑賞文を対象に、児童がどのように音楽を語るのかを分析した。その結果は次の通りである。①「すごい」「きれい」等、抽象度が高く様々な具体例に適用可能な語が多用されている。②詳しく記述したい場合には、より意味の幅の狭い形容詞等が用いられるが、適切な語彙を持たない場合には、そのような感覚・感情を体験するであろう状況・情景を記述したり、比喩を用いたりする。③しかし、児童の記述の重点は、演奏者や楽曲の特徴、記述を求める際の指示文等に大きく左右される。授業者は、その音楽経験のどのような点に児童の思考を焦点化させたいのかを明確にし、言語活動を組織することが重要である。 (2)徳島県立近代美術館を中心に開発された「鑑賞シート」の発問・指示文の分析を中心に「対話型ギャラリー・トーク」の考え方や発問等を音楽科の「言語活動」に活かす可能性と方策を探った。「対話型ギャラリー・トーク」では、「何が起きているの?」「これは何だろう?」という「開かれた問い」によって自由な対話を促している。しかし授業における発問・指示の有効性は、その指導目標によって変化する。音楽科の鑑賞の指導目標は題材及び授業者によって様々であり得るため、「対話型ギャラリー・トーク」のような汎用性の高い発問を設定するのは困難であると考える。 2.研究期間全体を通しての成果 小学校音楽科における「言語活動の充実」として、一般的には音楽活動・経験の所産としての言語表現に注目する傾向が強いが、児童が獲得している言語表現能力では思考を十全に記述することは難しい。音楽科の学習としては、言語活動によって音楽的思考が深まることが重要なのであり、言語表現としての完成度を求めるのではなく、児童の音・音楽に関わる思考を焦点化させる方策として言語活動を組織すべきである。
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