今年度は昨年度に引き続き変異体導入により安定化したヒト型Fab(改良Fab)の結晶化を実施した。このFabはヒト抗体のFc領域に結合する機能を持つので、抗体医薬品(ヒト型抗体)を購入後、パパイン消化によりFcを調製し、この改良FabとFc複合体での結晶化を試みたが結晶は得られなかった。並行して、ヒト型Fabの安定化機構を解明した。 pH7、25℃でグアニジン塩酸塩に対して、改良Fabの平衡論的な安定性を評価すると野生型Fabより1.2kcal/mol安定性が向上することがわかった。一方、昨年度調製したAsn138Alaヒト型Fabはアルカリ性条件(pH9)では、野生型Fabより安定であるが、pH7、25℃で同様の実験を行うと野生型とほぼ同程度の平衡論的な安定性を持つことがわかった。 60℃、70℃で野生型、改良Fab、Asn138Alaヒト型Fabを一定時間(1~4時間)保ち、冷却後残存量の測定を行った。25℃では改良Fabは他のFabより平衡論的な安定性が高いにもかかわらず、残存量にはほとんど差が見られなかった。この結果から、ヒト型Fabを室温で平衡論的に安定化する変異を施しても、高温ではヒト型Fabの高い凝集性のため、熱に対する安定性は向上しないことがわかった。即ち、ヒト型Fabの安定化の方策として、凝集性を低下すること、変性速度を低下することが有効である。 研究期間全体の本研究の目的はヒト型Fabの定常領域に変異を施すことにより、ヒト型Fab普遍的な安定化を実施し、この定常領域をスキャフォールドとして医薬品のみならず、食品、材料工学等に用いることであった。改良FabのX線結晶解析が成功しなかったことから、改良Fab以上に安定なスキャフォールドの調製はできなかったが、ヒト型Fabの安定化の方策についての情報を得る事ができた点は有益であった。
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