研究課題/領域番号 |
23656044
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
深津 晋 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (60199164)
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キーワード | 量子通信 / 波長多重光通信 / ファイバーコンポーネント / 周波数重ね合わせ状態 / 量子鍵配送 / 差動周波数シフト / 量子ゲート / 量子アルゴリズム |
研究概要 |
現行の波長多重WDM光通信方式は古典的な強度変調に過ぎず、量子通信には不向きである。本研究では、従来の光通信用ファイバコンポーネントを流用するだけで「安価」かつ「平易」に量子通信プラットフォームを構築可能な新技術体系の提案と検証を目指した。 従来、量子通信等では全く注目されてこなかった光の「周波数重ね合わせ状態」の積極的利用を試みた。周波数ドメインは無限の広がりをもちながら物理的スペースを消費しないためファイバ最大のメリットであるインライン構成が維持でき、その一方でファイバ素子の特徴が周波数弁別を容易にする特徴がある。なによりも一般的なレーザ光源を流用できるのがポイントであり、量子計算への拡張の道筋も明確である。平成24年度には周波数基底における量子鍵配送プロトコル実装の原理の検証実験を行った。新規開発した差動周波数シフト方式の鍵配送が、先行研究である位相差シフト方式と等しく、単一光子レベルの微弱光源を用いて実行可能なことを示した。まず、0.1光子毎パルス程度の微弱コヒーレント光を光源としてワンタイムパッド鍵配送実験系を用意し、位相同期をとった2つの強度変調器によって周波数エンコード光パルス列を発生。Franson型遅延干渉計によって周波数差に応じた光の空間モード弁別を実行し、時間ゲート下で同期ビート信号を単一光子検出した。変調器の帯域に制限されながらも予測どおりに非対称な2空間モード光検出事象の発生を確認できた。また、この結果は、ヤングの2重スリットによる光の干渉を時間軸上、単一光子レベルで観測できたことを意味しており、量子物理の観点からも重要である。さらにこの周波数基底の要素技術を援用して量子ゲートの構築を試み、全ファイバ方式でこれが実装可能なことを検証した。またシミュレーションによって古典的にグローバーの量子アルゴリズムが90%超の忠実度で実装できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の当初計画では、周波数基底における量子鍵配送プロトコル実装の原理の検証実験を行い、位相差シフト方式を発展させることによって単一光子レベルの微弱光源を用いても量子鍵配送プロトコルが実行可能なことの検証を目指した。さらにこの周波数基底の要素技術を援用して万能量子ゲート、すなわち回転ゲートと制御NOTゲートに相当する2ビット動作周波数量子ゲートを構築し、全ファイバ方式によってビット操作が実行可能なことの検証を目指した。実際、差動周波数シフト方式を新規開発し、量子鍵配送プロトコルの実装を、市販の光学コンポーネントだけを用いた実験系で示すことができた。さらに本研究で新規開発された周波数ベースの要素技術を発展させることによって、周波数アダマールゲートと周波数量子位相ゲートを構築し、これらの動作を実証した。これでほぼ当初の目的の多くの部分は達成できたことになる。それでもファイバコンポーネントのうち周波数弁別機能をもつコムフィルタの性能が予測と異なった影響で、全ファイバ方式の実験系構成を実証する部分には改善すべき課題が残った。その一方で、古典論にもとづたグローバーの量子アルゴリズムを周波数基底で動作できるなど、当初の予測を上回る成果も得られた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には、周波数基底における量子鍵配送プロトコル実装の原理の検証実験を行い、差動周波数シフト方式が位相差シフトと同様に単一光子レベルの微弱光源を用いて実行可能なことを示した。さらにこの周波数基底の要素技術を援用して量子ゲートの構築を試み、全ファイバ方式でこれらが実装可能なことを検証した。しかし、周波数弁別機能をもつファイバコンポーネントであるコムフィルタの性能の影響で、全ファイバ方式を実証する部分に課題を積み残した。延長申請が認められたので、その主たる目的である従来得られた成果の発表・公表に加えて、これらの一層の強化を図りつつ、残された課題の克服を目指す。一方、当初予測を上回る成果として、古典論にもとづたグローバーの量子アルゴリズムを周波数基底で動作できたことが挙げられる。計算機レベルではあるものの、90%超の忠実度を周波数ドメインで達成可能であることが新たにわかった。これらの成果をすでに3編の論文にまとめつつあり、国際学会での発表を見込んでいる。
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次年度の研究費の使用計画 |
課題として残った全ファイバ方式の実装検証のための物品購入として45万円を充当。オープンアクセス方式のOptics Express誌への3件分の論文掲載料 3 x@1,795 USドル=約50万円を、国際学会参加のための渡航費約30万円を見込んでいる。
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