研究課題/領域番号 |
23656225
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
池田 時浩 独立行政法人理化学研究所, 山崎原子物理研究室, 専任研究員 (80301745)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 多価イオンビーム / ガラス / 絶縁体 / 電気伝導度 / スイッチング現象 |
研究概要 |
ガラスは絶縁体として知られ、内部抵抗率は金属と比べると非常に高く、表面抵抗率も含め絶縁性が高い。厚さが1mmほどのソーダライムのガラス板では実用的には電流は流れないとも見なせる。この高い絶縁性を可逆的に低くするようなスイッチング制御を真空中の多価イオンマイクロビームを照射することで実現することを目的としている。初年度は;(1)2枚のガラス板の隙間に多価イオンビームを通過させ、その通過強度からガラスの伝導率の変化を検出する実験、および(2)マイクロビームを1枚のガラス板表面に照射し、反射角の時間変化、すなわち、表面の帯電による電場の消失、を検出する実験、の準備およびテスト実験を行った。ユニークな点として、(2)の多価イオンマイクロビーム照射という、サンプル表面にピンポイントで電荷を注入する手段があげられる。その際、ビーム強度とその安定性の確保に重点を置いた。また、照射が終わっても帯電状態は数10分続くと考えられるので、帯電を取り除くために電子銃をインストールした。更に、サンプルステージは、位置、角度の調整、サンプルの選択を行えるよう、平行移動が3軸、回転が2軸のステージを用意した。また、測定ソフトウェアも新たに開発し、できるだけ多くの測定値を時系列でグラフ化できるようにした。(1)のテスト実験では、いくつかの異なる加速電圧のビームで伝導率の急激な変化によると考えられる通過量の変化が得られた。(2)では、いくつかの試行のうち、まだ1度しか検出できておらず、マイクロビーム強度、ビームエネルギー、サンプルのビームに対する角度などの組み合わせを更に考えているが、想定されていないパラメータがないか検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の1月から3月にかけて予定していた放電位置の特定のためのガラス板裏面の金属箔のセグメント化が完了していない。1月の段階で製作が完了しているはずであったが、夏からの実験用加速器の電力スケジュールにうまく合わせることができなかったことと、メーカーからの部品調達の遅れにより、多チャンネル読み出しの発注・納品そのものを次年度にずらした。それ以外では、マイクロビームの安定供給技術の確立と、いくつかのスイッチングと考えられるデータを見出したことにより、当初予定していた初年度分のスケジュールの9割程度は達成できたと考えている。2枚のガラス板の隙間に多価イオンビームを通過させるほうの実験では、本研究費を申請するきっかけとなった実験と同様の、周期的通過が確認された。この周期的通過はある限られた幾何学的条件が必要であるため、この現象が再確認できたということは、この条件を把握できていると言え、今後のモデル計算において放電メカニズムの解釈が、より進むと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
◎初年度に完了できなかったガラス板裏面の金属箔のセグメント化を7月までに行う。:数センチメートル角のガラス板の裏に最大で10分割にセグメント化した金属箔を貼り付け、真空中に設置された多チャンネル電流アンプで各セグメントでの放電電流を増幅し電圧出力にする。電圧出力はフィードスルー付フランジを経由して大気側から読み出される。その電圧をPCに接続されたADCボードを使って時系列で記録する。◎上記と並行して、ガラスの材質(ガラス以外のポリマーも含め)、表面処理の方法、等を変えて実験を続ける。また、ガラス板の厚さを変えれば裏面のグラウンド電位との距離を変えたことになり、対応する照射エリアでの電場も変わることになる。(4月~12月)◎温度を変化させることも試みるが、加熱が容易な反面、真空中では冷却は難しいため、必須のパラメータとはしない。◎結果を夏から秋にかけての国内外での会議で発表する。◎1月以降は、詳しいモデル計算との比較とデータの公表を行うが、測定法そのものが新しいため、公表は他の専門家との議論の後、慎重に進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は当初予算に対し約50万円が繰越された。この繰越金は前述のとおり、ガラス板裏面の電極をセグメント化するためのセットアップにかかる費用である。具体的には、多チャンネル電流アンプ、フィードスルー付フランジ、ガラス板をマウントするための電極からなる。その他の部分は、当初予定通り、国内外での口頭発表の旅費、会議参加登録費、論文投稿費、および、ガラス板サンプル、表面処理薬剤、真空部品の購入に充てられる。
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