研究課題/領域番号 |
23656225
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
池田 時浩 独立行政法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター 応用研究開発室 生物照射チーム, 専任研究員 (80301745)
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キーワード | 多価イオンビーム / ガラス / 絶縁体 / 電気伝導度 / スイッチング現象 |
研究概要 |
ガラスは絶縁体として知られ、内部抵抗率は金属と比べると非常に高く、表面抵抗率も含め絶縁性が高い。厚さが1mmほどのソーダライムのガラス板では実用的には電流は流れないとも見なせる。この高い絶縁性を可逆的に低くするようなスイッチング制御を真空中の多価イオンマイクロビームを照射することで実現することを目的としている。 2年目は、(1)2枚のガラス板の隙間に多価イオンビームを通過させ、その通過強度からガラスの伝導率の変化を検出する実験を投稿論文としてまとめ受理された。(2)マイクロビームを1枚のガラス板表面に照射し、帯電により反射されたビームの反射角の時間変化、すなわち、表面の過大な帯電による電場の消失(リーク電流の急増)、を検出する実験を行い、当初予想していたダイナミックな反射ビームプロファイルを得ることができた。注目すべき点として、A.反射ビームは大きく広がって散乱される場合もあるが比較的小さなスポットになることがあり、B.スポットの形状、反射角は刻々と変化していきスポットそのものが消失する(あるいは検出器有感領域をはずれるほど大きく散乱される)ことがある。また、C.ガラス板の帯電により反射が起こるが当初予想より少ない入射電流(あるいはガラス表面電場)でガラスの抵抗値がスイッチングした可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目終了時点では、ガラス板裏面の金属箔からのリーク電流の測定が可能となった。4軸ステージと入射ビームの供給部分の開発はほぼ終了している。また、最新のOSに対応したデータ取得用ソフトウェアおよび解析用ソフトウェアの開発がほぼ終了したことで、大まかな解析や確認は実験中に行えるようになり、ビームタイムを無駄なく効率的に使用できるようになった。さらに当初予想していなかった多価イオンビームの生成と供給を行っているビームライン上流部のビーム輸送系のふらつきも当実験に影響を与えることもわかってきたため、ビーム輸送系の最適なパラメーターの決定も行った。その結果、「概要」で述べた予想通りのダイナミックな反射ビームプロファイルを得ることができた。しかしながら、現象が起こるガラス板への入射角度や照射位置の条件はかなり狭く、ビームエネルギーを変えるたびに現象が起こる条件を、時間をかけて探す必要があり、まだ、系統的な議論ができているとは言えない。
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今後の研究の推進方策 |
◎ビームエネルギーを変えて現象が起こる条件を探す実験を繰り返す。(4月~12月) ◎ガラスの材質(ガラス以外のポリマーも含め)、表面処理の方法、等を変えて実験を続ける。また、ガラス板の厚さを変えれば裏面のグラウンド電位との距離を変えたことになり、対応する照射エリアでの電場も変わることになる。(4月~12月) ◎温度を変化させることも試みるが、加熱が容易な反面、真空中では冷却は難しいため、必須のパラメーターとはしない。 ◎結果を国内外での会議で発表する。(夏から冬)
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次年度の研究費の使用計画 |
2年目に、非常に小さいビームスポットが得られるなど、予想を超える興味深い現象が観測できたので、2年目の発表は最小限にとどめ、次年度に発表を行うこととした。国内での口頭発表の旅費、会議参加登録費、論文投稿費、および、ガラス板サンプルと表面処理薬剤の購入に充てられる。
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