研究課題/領域番号 |
23659518
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
森尾 友宏 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (30239628)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 顆粒球 / 活性酸素(ROS) / シグナル伝達 / リン酸化 / Btk / Mal |
研究概要 |
まずBtkが好中球の基底状態におけるROS産生を負に制御する分子機構を明らかにした。好中球においてはBtkとMalの会合が重要であり、Btkが存在しないとSrcプロテインチロシンキナーゼ(PTK)がMalの活性化と膜移行を誘導することを明らかにした(Nat. Immunol., 13: 369-378, 2012)。さらに、Btk非存在下でのPTK活性化機構について検討をすすめた。Csk/CskbpはBtkの有無で発現・局在・リン酸化に差がなかった。好中球に発現するホスファターゼはBtkの有無で発現量の差はないが、活性については不明である。Btkと会合しないMalがPTKを活性化する可能性については検証中である。スカベンジャーであるパーオキシレドキシンについては、そのリン酸化の程度がBtkの有無で異なっており、Redoxシステムとの関連の中でさらに検討している。また、Btk欠損患者末梢血から分離した好酸球を用いて、ROSやケミカルメディエータの産生について解析したところ、好酸球でROS産生が亢進していることが明らかになった。脱顆粒指標であるEDNについては大きな差が認められなかった。マスト細胞は臍帯血より誘導し、Btk特異的阻害剤を用いて検討中であるが、ROS産生自体が弱く、差を明らかにするには至っていない。今後、組換え型Btkタンパクを膜透過性ペプチドに結合させた形で用意して好酸球に導入し、ROS産生の挙動について検討する準備を整えている。さらに、PreB細胞段階におけるBtk欠損による細胞のアポトーシスを検証するために、iPS細胞からのB細胞分化の予備実験を共同研究の形で開始した。本システムが動けば、より直接的に仮説を検証可能と考えている。T細胞におけるROS産生については感度良く検出する系を立ち上げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト(健常人およびBtk欠損患者)末梢血好中球を用いて、BtkのROS産生シグナルにおける役割をMalとの関連において明らかにし、PI(3)Kや、Lyn, c-Src, Sykなどその他の分子群を含むシグナル伝達系を詳らかにした。それぞれの分子の刺激前後の発現、局在や修飾などは多数検体を用いて検討することができた。ROS産生に至るシグナル伝達については、好中球と単球の間でも比較検討した。その結果、本研究に関する論文は2012年2月にNature Immunologyにアクセプトされた。 好中球以外の顆粒球における研究も進み、好酸球においてもBtkがROS産生を負に制御していることを明らかにした。マスト細胞については培養法を確立したが、T細胞における検討は開始したところであり、Tecファミリーキナーゼの発現を比較検討しているところである。 B細胞分化における検証は時間がかかる作業と認識し、NOG-SCIDマウスへの移植実験やiPS細胞を用いた分化系の確立などの基礎的な実験を着実に進めている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は特に、PTKとMalの関連について研究を進めると共に、TLRシグナル、FcgammaRシグナルなどにおける関与について、さらに詳しく検討する。得られた研究成果を元にして、最終的には組換え型の野生型Mal、膜移行型Mal、細胞質滞在型Malを用いて、好中球活性化の制御を試みる。 さらに単球においてはBtkが欠損するとROS産生が低下するという現象に注目して、好中球と単球からのROS産生シグナルにおけるBtk, PTK, Mal, PI(3)Kの役割の違いについて末梢血細胞を用いて検討を加え、明らかにする。Phosphataseの発現や、その機能についても、比較検討する予定である。これらにより好中球に特異的な活性化制御機構について明らかにする。 また骨髄系細胞分化段階におけるBtkなどの役割を検討する。実際にはまずHL-60細胞からの分化系を確立して、Btkやその他のシグナル伝達分子の発現や、TLRなどからのシグナルについて解析する。 その他の顆粒球やT細胞におけるTecファミリーキナーゼの役割は基礎的な部分について確実に解析を終了し、全般化できる現象と各系列に特徴的な現象を整理するべく検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
主には好中球を用いた実験の消耗品として研究費を使用する予定である。さらに研究が進めば、学会発表や論文の投稿を行い、成果の公表につとめたい。
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