研究課題/領域番号 |
23700023
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
荻田 武史 東京女子大学, 現代教養学部, 准教授 (00339615)
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キーワード | 数値計算手法 / アルゴリズム / 行列解析 / 高精度計算 |
研究概要 |
科学技術計算の基礎を成す数値線形代数に現れる問題(連立一次方程式、固有値問題、特異値問題等)では、問題の難しさの指標となる条件数が大きくなると、計算機で実行される有限桁計算(浮動小数点演算)による誤差が拡大しやすくなり、得られた近似解の持つ精度が著しく低くなる場合がある。本研究の目的は、条件数の大きさに関わらず、問題を高精度かつ高効率に解くことができる数値計算アルゴリズムの体系を構築することである。そのために、数値線形代数におけるロバストな行列分解アルゴリズムの開発を目的とする。 平成24年度は、対称正定値系の行列に対するCholesky分解を用いたロバストな逆行列分解アルゴリズムの解析を行った。このアルゴリズムは、行列の正定値性の判定と本質的に同等であり、半正定値計画問題のような最適化問題等、多くの応用があるが、今回の解析によって、アルゴリズムの収束性を保証し、その収束のために必要な計算精度を理論的に求めることに成功した。 また、固有値分解、特異値分解に関するロバストな逆行列分解アルゴリズムを開発した。対称系の固有値分解や特異値分解は、直交行列(ユニタリ行列)による変換に基づくため、これを前処理として適応的に行列の条件数を下げることはできない。その点において従来の逆LU分解・逆QR分解や前年度に開発予定の逆Cholesky分解などとは異なる解析が必要であるが、その解析に着手した。 さらに、上記と並行して、提案アルゴリズムの効率化を高めるために、行列乗算の高精度演算に関する研究も推進した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、平成23年度については、ロバスト行列分解アルゴリズムを設計する際の突破口と成り得る具体的な問題を取り上げて、それらの問題に対する数値計算アルゴリズムを構築することが目的であった。具体的には、対称正定値行列に対するロバスト逆Cholesky分解のアルゴリズムの開発を目指した。基本方針は、既存の高速かつ安定性のある数値計算ライブラリを可能な限り有効活用し、必要となる高精度演算については、これまでに開発してきたアルゴリズムをベースとして、内積計算や行列乗算に限定した効率の良い方式を考案することであった。これは、開発するアルゴリズムの汎用性の点においても重要である。また、ロバスト逆Cholesky分解を利用した対称行列の正定値性の保証法も提案した。これらの成果をまとめ、論文発表も行った。 また、平成24年度については、固有値分解、特異値分解に関するロバストな逆行列分解アルゴリズムを開発することが目的であった。対称系の固有値分解や特異値分解は、直交行列(ユニタリ行列)による変換に基づくため、これを前処理として適応的に行列の条件数を下げることはできない。その点において従来の逆LU分解・逆QR分解などとは異なる解析が必要である。この点を明確にするため、まず、前年度に開発したロバスト逆Cholesky分解アルゴリズムの収束解析を行った。これによって、反復毎に入力された行列の条件数を低減させることができることを示した。次に、特異値分解に関するロバスト計算アルゴリズムを提案し、その解析に着手した。 また、上記と並行して、提案アルゴリズムの効率化を高めるために、行列乗算の高精度演算に関する研究も継続して推進し、論文発表等を行った。 以上のように、当初の計画に沿って研究成果を出しており、本研究課題の進捗状況は順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、前年度までの結果をもとに、それらを統合する行列分解アルゴリズムの体系を構築する。さらに、前年度までに開発したアルゴリズムの並列化(共有メモリ型並列、分散型並列)についても検討する。特に、近年のCPU やGPU のマルチコア・メニーコア技術の発展を考慮した、ハイブリッド型並列計算向けのアルゴリズム開発に重点を置く。 また、それと並行して、提案アルゴリズムの効率化を高めるために、行列乗算の高精度演算に関する研究も継続して推進する。 また、平成26年度は、これまでに構築してきた行列分解アルゴリズムの体系を一般化Schur分解や一般化固有値問題などにも適用可能であることを示していく。また、理工学に現れる物理現象の多くの問題においては、解析対象モデルを有限差分法や有限要素法などによって離散化し、得られる係数行列が疎行列となるため、疎行列向けのロバスト行列分解法についても検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度以降も、主に物品費及び旅費として研究費を支出する。 物品費としては、開発したアルゴリズムを計算機上で実装し、数値実験によってその有効性を可能な限り最新の計算機アーキテクチャ上で示すことが重要であるため、高性能なデスクトップ型PCを購入予定である。また、その予備実験やアルゴリズムの開発段階での使用のために、ノート型PCを購入予定である。 旅費としては、研究成果の発表や研究に関する情報収集のため、研究出張として使用する。具体的には、数値解析シンポジウム、日本応用数理学会年会、同連合発表会等に参加する。 前年度の未使用額は、研究出張に使用する。
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