近年の脳研究を通じて、人間が自らのパフォーマンスをモニターし、評価することと関連する脳活動の存在が明らかになってきた。しかし、同じ状況下でも、パフォーマンスをどのように評価するかは個人間で大きく異なるように、必ずしも一様ではない。その背景として考えられる大きな要因は、モチベーションなど、状況に対する個人ごとの情動的評価の相違であるが、その影響については明らかにされていない。そこで、本研究では、他者との競争という状況を作り、個人ごとのモチベーションの相違が認知課題遂行中のパフォーマンスモニタリングと関連する脳活動に及ぼす影響について検証を行った。 実験は、健常な成人14名を対象に行った。被験者は、PC画面上に提示されたストループ課題を150試行し、パフォーマンスは平均反応時間と正答率によって評価することとした。被験者には、パフォーマンス上位者に報酬が与えられると予め教示を行った。本研究では、頭頂部における回答直前の脳波θ帯域(回答を基準として-500~-100ミリ秒:Res_θとする)の平均パワーに注目し、まず、個人ごとに正解試行を早い試行(CR_fast)と遅い試行(CR_slow)の二つに分類したうえで比較を行った。その結果、Res_θは、CR_fastに対してCR_slowで有意に大きい値をとることが示された。このことから、Res_θは、課題の処理に対する反応の遅れのモニタリングと関連づけられることが示唆された。次に、個人ごとにCR_fastとCR_slowにおけるRes_θの差分(⊿Res_θとする)を求めたところ、⊿Res_θは平均反応時間との間に有意な負の相関関係をもつことが示された。この結果から、Res_θは反応の遅れによって一様に増大するのではなく、反応時間を短くするというパフォーマンス向上に対するモチベーションの相違によっても影響される可能性が示唆された。
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