茶梅亭文庫の調査と目録化を、文庫主の協力も得ながら進めてきた。江戸狂歌の稀覯本としては、すでに紹介した鹿都部真顔編、北尾重政画『花ぐはし』(寛政7年刊)の現存唯一の初印本(拙稿「狂歌が浮世絵にもたらしたもの」『浮世絵芸術』160号)のほかにも、ほぼ新出の孤本といえる資料を3点を見出した。(1)従来京伝関係の資料として『名取の老』の名で部分的に紹介されたものの、行方と正式書名がが不明だった陸奥桑折の上水亭下見編『老寿杖』(寛政10年刊)中本1冊、(2)書名のみ知られてきた真顔序・忠孝二字守編『雄花集』(文化2年刊)中本1冊、(3)浅草庵関係、とくに陸奥方面の地方狂歌人たちの自筆版下狂歌集(逸題、文化後半頃)横本1冊である。これらについてその書誌と解題を付して紹介・翻刻した(「茶梅亭文庫の江戸狂歌稀覯本」)。併せてこの他、他に1、2点の伝本が知られるのみであった『八重垣ゑにむすび』(天明8年刊)中本1冊、『春の戯うた』横本1冊(享和2年刊)、『四方山』(文化6年刊)の所蔵についても併せて報告した。とりわけ(1)については、京伝の地方読者とのかかわりを考えるうえで重要であり、その背景や意義について分析した(「京伝と陸奥狂歌人」)。 以上のように貴重資料の把握と紹介は進めることができたが、目録そのものは公開するところまで整備するには至らなかった。とはいえ、相応程度にデータ化を進めてきており、確認作業をしたうえで完成する見通しも出てきている。記録をきちんと残すべき貴重な資料群であり、数年以内の完成と公開を目指していきたい。
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