近代国民国家が成立してゆく過程では、「国民文学」が建国の神話とナショナル・アイデンティティを構築するための機能を果たしてきた。平和な植民の物語が生産され消費されてきた豪州でも、1990年代になって先住民と非先住民の和解問題が社会的文脈で重要課題となり、「ポスト国民国家的主体性」を模索する文学が誕生している。本研究では、主流社会と交渉・折衝しながら主体構築を目指す先住民文学と、従来の「国民文学」を越えて、非先住民オーストラリア人の所属意識やナショナル・アイデンティティへの再考を促す作品を考察し、現代豪州文学が「ポスト国民国家」時代の文学的地平を拓き、新たな主体性を構築している様を明らかにした。
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