研究課題/領域番号 |
23720432
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
磯野 真穂 早稲田大学, 文学学術院, 助教 (50549376)
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キーワード | 文化人類学 / 医療 / 医師―患者関係 / 病いの語り / 循環器疾患 / 漢方 |
研究概要 |
申請者は、とりわけ国内の先行研究が、生物医療の周縁で行われ、さらに医療者の声を取り入れずに行われている現状を問題視し、循環器疾患と漢方外来の2 つで、診察の参与観察およびそれぞれの担当医と患者へのインタビューを開始した。すでにこれまでに539 件の診察の陪席と、50 人の患者へのインタビュー、さらには担当医への聞き取りを調査を行った。 循環器疾患と漢方をフィールドとして選んだ理由は、循環器疾患の治療が画像や数値による「客観的診断」が高度に発達した領域である一方、漢方診療が、患者の主観に徹底的に寄り添うという対照的な診断方法をとっており、その2 つを比較することで、双方の医療の現状が逆照射されると考えたからである。 予備調査の結果、臨床医が常に問題として抱える服薬ノンアドヒアランスが、調査に適すると判断し、服薬ノンアドヒアランスにおける、医師と患者の病気に対する意味づけのずれを分析した。 個人の心理的傾向に原因が集約されがちであった服薬ノンアドヒアランスを、社会・文化的な背景におきなおし、その成果を学会発表、論文、およびホームページにおいて公表した。一般に服薬ノンアドヒアランスは、患者側の不十分であったり、偏っていたりする医学的知識によって起こると捉えられがちだが、本調査の結果、患者側のノンアドヒアランスの根拠は、経験的・身体的・社会文化的・政治経済的と、科学的な知識体系とは別の、複数の要因の絡み合いにより、包括的に構成されているため、単に「正しい」科学的知識を患者に享受するだけでは、アドヒアランスの向上は期待しにくいであろうことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
医療人類学は、生物医学に対し、科学的なエビデンスを偏重し、病気の社会・文化的な側面を捨象するとの批判を一貫して続けてきた。しかしそのもととなる研究のフィールドは、患者団体や民間医療など生物医学の外側であるため、なされた批判が生物医学の現場で起こっているかどうかは不明確である。したがって本研究は、生物医学の診察現場での参与観察および医師と患者へのインタビューを通じて、病気がいかに意味づけられるかを明らかにすることを目的とする。これまでの研究の不十分な点を補完しつつ、診察現場をとりまく医療問題への解決策を提示することで、人文・社会科学と自然科学を結節させることが本研究の最終的な狙いであった。 本研究はおおむね予定通り進行したが、循環器外来の調査において、患者へのインタビューの開始が、倫理委員会の開催時期の関係で、当初予定していた2011年春より半年遅れたため、その分の調査に遅れが生じた。また2012年9月に循環器系の学会に論文を投稿したが、量的調査が一般的である循環器系学会誌に対し、本研究の投稿論文は 質的調査であったことが大きな原因となり、この投稿論文は査読で不採択となった。この点で成果公表において当初の予定より遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
循環器外来の調査では、2011年冬季から現在まで、診察の参与観察と患者へのインタビュー、および医療者への聞き取りを続けている。その成果発表ため、それまでの調査結果を踏まえ、2012年9月に論文を投稿したが、量的調査が一般的である循環器系学会誌に対し、本研究の投稿論文は質的調査であったことが大きな原因となり、この投稿論文は査読で不採択となった。この経験を踏まえ、循環器系の学会誌にも受け入れられるような形にリサーチデザインを練り直し、再調査を2013年2月からいまいちど開始した。2月~4月にかけて集中的に調査を行っており、2013年の夏季にいまいちど論文を再投稿する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
インタビューのテープ起こし代、旅費、消耗品、および書籍代に利用する予定である。
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